2018.01.20 Saturday

女性の自己決定権を無視する淫行勧誘罪

 アダルトビデオへの出演強要が社会問題となるなか、警視庁が制作会社の社長らを異例の逮捕に踏み切りました。何が異例かというと「淫行勧誘罪」という容疑を適用したことです。警視庁によると、実に82年ぶりの適用です。
……
 「強要が密室で行われるので、なかなか立証が難しく、強制性交等罪の立件が難しかった。この法律(淫行勧誘罪)でいけば、AV出演強要たくさん相談事例があるが、多くの場合、この法律で不当な介入をした人を処罰できるという意味で非常に大きい」(国際人権NGO ヒューマンライツ・ナウ事務局長 伊藤和子 弁護士)
(2018.01.19 TBS News)
伊藤弁護士は「淫行勧誘罪を適用した意義は大きい。AVに出たことのない女性を不当な方法で勧誘して撮影で性交渉をさせたら、シンプルに摘発する道が開けた」と話す。
(2018.01.19 朝日新聞)
 保安課によると、逮捕したのはプロダクション「ディクレア」元社員、雪本剛章(たかあき)(35)=横浜市西区みなとみらい五=と、制作会社「ビエント」経営中野斉(ひとし)(51)=東京都中野区弥生町五=の両容疑者ら。雪本容疑者ら二人は容疑を認め、中野容疑者は「(女性が)初めて出演するという認識はなかった」と否認している。
 逮捕容疑では、二〇一五年六月、AVの撮影映像が無修正で配信されることを隠し、出演を拒んだ女性に「あなたのプロフィル写真を撮影するのにいくらかかっていると思っているの」などと言い、中野区の撮影所で男性相手に性行為をさせたなどとされる。
(2018.01.19 東京新聞)
(淫行勧誘)
第一八二条 営利の目的で、淫行の常習のない女子を勧誘して姦淫させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
(平成7年5月12日 刑法の一部を改正する法律)
 見かけないので、誰も分からない罪名です。
 客体が「女子」に限定されているので、最近の風潮からすると、法の下の平等に反するとか言えそうですね。
 脅迫があるのなら、強制性交等罪とか強制わいせつ罪でいけそうです。
(2018.01.15 奥村徹弁護士の見解)
保護の客体を「淫行の常習のない女子」のみに限定して、「淫行の常習のある女子」を保護の客体から排除している淫行勧誘罪は、法の下の平等に反する違憲性の疑いが濃厚であり、これをAV出演強要行為に適用することは法的に問題があるのではないでしょうか。この淫行勧誘罪も、近い将来に見直されるべき規定ではないかと思います。
(2018.01.21 園田寿 甲南大学法科大学院教授、弁護士)

 刑法182条の淫行勧誘罪で起訴した場合、たとえば女性に援助交際などの経歴があれば、裁判では「淫行の常習」が問題になります。現実の裁判では強要側の無罪はありえないとしても、強要行為ではなく「淫行の常習」を争われる裁判は被害女性にとってセカンドレイプ的であり、淫行勧誘罪でAV出演強要を起訴するのは問題がありそうです。「淫行の常習性で判断され、女性側の自己決定権が尊重されない」非人道的な抜け穴がある淫行勧誘罪は廃止か修正が妥当でしょう。
 各自治体の迷惑防止条例で「風俗やAVのスカウト行為だけを罰する」条文が、スカウト段階で正確な説明が行われず「タレント契約後にAV勧誘される」トラブルの原因になるなど、わかりやすい抜け穴がある条文は新たな被害を誘発します。大手芸能事務所は政治的なコネが強いので多くの自治体条例ではスカウト規制の対象外とされていますが、大手芸能スクールによる特待生オーディション商法などのトラブルも多く、抜け穴は不自然です。
下記の客引き行為等を規制対象とします。
……
勧誘行為(特定の業種)
通行人等不特定の者の中から相手方を特定して次の仕事に従事するよう勧誘(スカウト)する行為
人の性的好奇心に応じて人に接する役務(性風俗等)
専ら異性に対する接待をして酒類を伴う飲食をさせる役務(ホステス等)
わいせつな行為の被写体となること(アダルトビデオへの出演等)
(2017.04.01 港区客引き行為等の防止に関する条例)
親に内緒でお笑い養成所のオーディションを受けるも、自宅に合格通知書が送られてきたことで発覚。しかも、父親が「入学金免除とうたいながら授業料を払うとは、悪質な詐欺だ」と騒ぎ、後日、菓子折りもって謝りに行く事態になったという。
(2014.04.18 日刊ゲンダイ「家族はいまだ大反対 お嬢様芸人・たかまつななの“反骨心”」)
あのオーディションは受ければ全員合格で特待生で学費一部免除です
(2015.01.08 Yahoo!知恵袋)
このオーディションって全員入学ですよね?
オーディションの意味あるんですかね??
3万円免除とかされても普通にたかぃし。。。
(2008.03.06 キャスフィ)

 ほとんどの無修正動画を配信してるのは外国人が経営する海外の会社なので、経営者が入国しなければ日本の法律の範囲ではなく違法性がありません。
 報道では「AV強要問題」として扱われていますが、淫行勧誘罪での無修正AV摘発は「国外犯なので権利者を摘発できない海外無修正動画配信の日本人関係者を取り締まりたい」警察側のモザイク利権が暴走しているようにも見えます。
 この淫行勧誘罪で元従業員が摘発された芸能プロダクションは、無修正動画に出演者を派遣した件で2017年にも摘発され、所属する女優や男優まで逮捕されていました。もし出演者が「無修正だと知っていた」と証言すれば、わいせつ電磁的記録頒布幇助容疑で出演者も逮捕。つまり警察は無修正動画のほうを問題視していて、出演者の自己決定権は軽視しているわけです。
 わいせつ電磁的記録頒布(はんぷ)幇助(ほうじょ)容疑で逮捕されたのは、無修正動画の撮影現場にAV女優を派遣した芸能プロダクション「ディクレア」社長の石崎宣行容疑者(35)や同社従業員ら計5人。中には出演していた元女優の西川ゆい(25)と男優も含まれていた。
……
 無修正AVをめぐり、出演した女優や男優まで立件するのは異例だが、弁護士の高橋裕樹氏は「無修正動画を野放しにさせないためのみせしめではないか」とみる。
(2017.03.08 夕刊フジ)

 日本人俳優が外国映画で性器を露出しても違法ではないのに、無修正ポルノ動画だと出演者が逮捕されてしまう法運用は異常です。
 一部報道では「東京五輪へポルノ産業浄化」などと警察側の意向を示していますが、出演者の自己決定権より性器モザイクを重視している国は日本と中国ぐらいです。
 今後、警察側が淫行勧誘罪で摘発強化したいのは海外無修正動画だけで、いわゆる「AV強要問題」はモザイク利権維持拡大に利用されているだけかもしれません。AV業界側は「AV強要問題」対策として契約書の見直しや映像再利用条件の厳格化などを進めていますが、警察側は「AV強要問題」対策よりもモザイク利権維持拡大を優先するかのように、販売店に無審査DVDの販売自粛を求める通達を出していました。
 新ルール適用前の作品については、4月からは本人が申し出れば削除できるようになる。「結婚するから」「社会生活に支障が出るから」などの理由があれば、削除の申請ができるようになる。女優本人が同機構に申し出て、同機構が本人確認をし、確認が取れればメーカーに通知する。複数の女優が出演する作品についても、一人が削除要請をすれば、作品は消えることになる。新ルール適用後の作品で5年以内のものも同じ手続きになる。
(2017.12.27 毎日新聞)
 先般、当課におきましては、わいせつDVDの製作・販売会社を摘発し、同社の取締役らを検挙いたしました。
……
 同社は、製作したDVDを「着エロDVD」であるとの理由から、審査を受けることなく、流通経路に乗せ販売をしていました。
……
 そこで、関係各位にあっては、再発防止のため、性表現が含まれるDVDについては取引の際にその内容を十分に確認していただき、健全な性秩序の保護などに取り組んでいただきますようお願いします。
(平成28年7月21日 警視庁生活安全部保安課長「適正なDVD販売について」)

 2013年に「女性器型取りおじさん」がわいせつ物頒布容疑で摘発されたとき、漫画家ろくでなし子は連載コラムに「まんこの型をただチン列していただけで捕まったのならひどい話ですけれど、勝手に販売していたことについては捕まっても当然」と書いていました。しかし、わいせつ罪による摘発を容認すると「女性器の肖像権(まん権)」は否定されてしまうので、この見解は矛盾しています。後にろくでなし子自身も摘発され、わいせつ罪についての見解を改めたようです。
 警視庁保安課と武蔵野署は6月27日、女性器をかたどった石こう型を販売したとして、わいせつ物頒布容疑で、静岡県静岡市清水区の介護施設職員の男(50)を書類送検した。
 警視庁は男が販売した石こう型を、「実物そのもので、違法なわいせつ物」と認定し、書類送検に踏み切った。
(2013.06.29 リアルライブ)
おじさんは人柄は悪い人ではないけれど、型取りしたまんこの持ち主の許可を得ずにヤフオクで勝手に販売しているらしいのを聞き、わたしは取材しながら(まん権無視かよ!)とモヤモヤしました。
(2013.07.10 ろくでなし子 messy)

 淫行勧誘罪での起訴も濫用されると、女性の自己決定権を無視する条文の問題が裁判で露呈するはずです。伊藤和子弁護士も、淫行勧誘罪での摘発を歓迎した見解を改めることになるかもしれません。



・関連
→ 熟女イメージDVD摘発でなぜか「疑似児童ポルノ」という報道
→ 教義を法律にしようとする宗教団体


2017.10.03 Tuesday

「九州でエイズ急増したのは風俗客の中国人が原因」説はデタラメ

 自称「ネトウヨ」ライター森鷹久による「九州でエイズ急増したのは風俗客の中国人が原因」説がNEWSポストセブンに掲載されていた。しかし、感染症法で全数報告が義務付けられているHIV感染者・エイズ患者数の統計では、九州地域で近年増加しているのは日本人男性のエイズ患者ばかりで、日本人女性のほうは新規HIV感染者とエイズ患者を合計しても九州地域ではこの10年だいたい年間5人前後。そして外国人男性や外国人女性の新規HIV感染者・エイズ患者は、九州地域では数年に1人程度。「風俗客の中国人が原因」説にはまったく根拠がない。
 福岡県福岡市で派遣型風俗店を営む男性(49)は、中国や韓国など、大陸方面からやってくる男性観光客の増加が、HIVやその他の性病の蔓延の原因だと分析している。
「関西方面で、抗生剤の効かない新種の淋病が流行った時も、二年前くらいから梅毒患者が増えたことも、そして今回のHIV感染も、全部外国人観光客の、特に中国人観光客が増えたタイミングとぴったり一致しとるでしょう。金持ちの客は女の子にチップをたっぷり渡して、密かに本番行為を迫ってくる。それが当たり前になっとったけど、黙っとったらこの状態になった。
 梅毒やら淋病ばうつされるくらいならまだマシやったけど、HIVてなるとね……。あっち(中国)では、福岡は食い物と女の子の街て言うて紹介されとる事もあると。あと、九州の人はゴム(避妊具)をつける習慣が、関東や関西に比べて少なか気もしますね。夫婦や彼氏彼女の関係だったら、油断してゴムをつけない」
(2017.09.30 NEWSポストセブン 森鷹久)
 これに対し、県内最多となる計63人という報告数を出した福岡市を直撃すると、保健福祉局健康医療部保健予防課の担当者が状況を説明する。
「実は、この1年前の15年の報告数は計27人とかなり少なかった。そのため、増加率がハネ上がったのです。つまり、一昨年にきちんと検査を受けておらず、昨年にいきなりエイズを発症したケースが数字に反映されたのではないかと見ています」
(2017.10.02 アサヒ芸能 2017年10月5日号)
 新規報告者数(15年)で全国の感染者・患者の内訳は、日本人男性が約9割、感染原因は同性間性的接触が最多の約6割だった。福岡県も全国と同様の傾向だが、患者が3割程度の全国データに対して、福岡県の患者比率はほぼ半数で、発症してから報告されるケースが際立っている。
(2017.09.19 西日本新聞)
福岡市HIV感染者等情報(平成28年12月末現在)

(2017.09.29 福岡市保健福祉局健康医療部保健予防課)

 報道の常套句「日本だけがエイズ拡大」は誇張で、全国的には年間報告数は横ばい傾向なので、九州地域の報告数増加が話題になってるだけ。人口あたりの感染数が極端に多いわけではない。
報告地(医師により届出のあった地):東京都を含む関東・甲信越(HIV感染者514、AIDS患者185)、近畿(HIV感染者185、AIDS患者77)に多い。人口10万対では、HIV感染者数およびAIDS患者数上位10位に九州、四国の県が含まれる(表)。
(IASR 2017年9月号「HIV/AIDS 2016年」)
新規患者の年齢分布
年齢別の割合をみると、HIV感染者では20代〜30代が最も多く、AIDS患者では30代〜40代が最も多く推移しているが、2011年以降50歳以上の新規HIV感染者・AIDS患者総数が増加し、特にAIDS患者に占める50歳以上の患者の割合が急増している。また、70代、80代の新規感染者の報告がある一方で10代の新規感染者も認められており、感染年齢層の拡大が懸念される。
(IASR 2017年9月号「福岡県のHIV感染者・AIDS患者の動向」)

 梅毒やクラミジアなど「1回のセックスだけでも感染する可能性が高い」タイプの性病は、風俗店など不特定多数との接触で異性間感染が拡大しやすい。日本でも近年の梅毒感染拡大では、同性間感染の増加だけではなく、若い女性患者が急増している。ちなみに梅毒の感染拡大は最近の日本や中国だけの現象ではなく、日本でも欧米先進国などでも数十年周期で感染拡大と減少を繰り返している。
 全体の約7割を占める男性は各年齢層から偏り少なく報告されているが、女性は20代が女性全体の5割超を占め、感染増加が目立つ。男性の同性間の性的接触による感染だけでなく、近年は異性間での感染も広がり、患者増加に拍車がかかっているとみられるが、原因ははっきりしない。
(2017.01.13 朝日新聞)
梅毒はペニシリンによる治療が確立され、第二次世界大戦後以降、罹患数は大幅に減少した。しかしながら、先進国を中心に男性と性交をする男性(men who have sex with men: MSM)を中心とする報告が近年増加している。
(IASR 2015年2月号「近年の梅毒の国外動向」)

 ところが、HIVのように「1回のセックスだけでは感染する可能性が低い」タイプの性病は、コンドームを使えば感染しないので、生でアナルセックスを行う層の感染確率と膣性交しかしない層の感染確率に極端な差が出る。都市部で一般的な、フェラや素股などの擬似行為が中心の風俗店では、他の性病の感染拡大はあってもHIV感染は拡大しにくい。
 統計でも、同性間HIV感染は有名なハッテン場がある都市部の割合が多いが、異性間HIV感染は風俗街の規模とは比例せず、風俗嬢が性病検査を受けやすい病院の多い都内では感染拡大への影響が少ないように見える。年40人程度しかいない日本人女性HIV感染者・エイズ患者の年齢層は幅広く、増加もしていない。日本では女性HIV感染者・エイズ患者の約半数は出産が前提の妊婦健診で発覚していて高齢層でも夫婦間感染の割合が多い。いわゆる「ゆきずりのセックス」や一般的な性風俗店での行為よりも、性病検査を受けずに特定の相手と生中出しを繰り返す関係のほうが、確率的にはHIV感染しやすいからだ。

 しかしこれは近年だけの傾向で、警察ドキュメント番組でよく登場する手口の海外からの人身売買による違法売春店を警察が長期的に泳がせていた1990年代には、地方の外国人売春パブなどで異性間のHIV感染拡大が起きていた。人身売買事件では、パスポートや通帳が取り上げられるなどの手口で、女性たちが自発的に検査を受けにくい状況にされ、性病の蔓延を招いたようだ。
 海外でも、娯楽の少ない地域で働く出稼ぎ労働者たちに、売春婦などを経由してHIV感染拡大後、さらに夫婦間でも感染拡大したとされる事例は多くの国にある。おそらく病院や保健所などが少なく、売春婦も常連客もその妻も長期的に性病検査しない環境だったことが共通する原因と考えられる。
 このため日本のHIV統計では1990年代、日本人女性よりも外国人女性の新規HIV感染者・エイズ患者のほうが多い時期があったが、人身売買摘発までの期間が短縮されたのか、近年では外国人女性の報告数は激減している。
「店にはタイ人が5人いたけど、売春をするのはビザのない者だけ。客の多くは40歳以上で、ほとんどがコンドームを使うのを嫌がった。10人いたら使うのは良くて半分。付けてと頼むと次から指名はなくなった。大きな声でののしられたこともあるし、店からも客に逆らうなと怒られた。大きな借金が残っているので従うしかなかった」と彼女は辛かった日々を振り返った。
「だからHIVに感染したのは、日本人客からだと確信している。タイで出産したときに受けた検査では陰性だったし、その後は夫と別れ、ほかに身の覚えもまったくない」
 平成16年から昨年までの4年間で、タイ大使館が把握している人身売買被害は62件。うち半数以上の34件が長野県で発生している。この数字は、警察による検挙や被害者本人が助けを求めるなどして明らかになったケースで、実数はそれよりはるかに多いが、確かなのは長野県が人身売買の一大拠点となっていること。
(2008.08.01 産経新聞 2ch.net
国籍別、性別、年齢階級別の年次推移(HIV感染者)

(2016.05.25 エイズ発生動向年報 厚生労働省エイズ動向委員会)
(注・10歳未満の新規HIV感染報告は母子感染)
 厳密には「風俗のない県」なんてありませんが、一般的には、長野はそう言われています。でも、実はめっちゃたくさんの風俗があるんです。
 デリヘルはもちろん、以前このコラムでも書いたように松本市には風俗ビルまであり(※1)、繁華街には闇営業の店舗型ヘルスも複数存在するほど。ないのは、届出済みの店舗型ヘルスとソープランドだけというわけなんです(実はヘルスは1軒だけある)。
 風俗店を開業するには地域の公安委員会への届け出が必要なんですが、店舗型の場合、長野県はその受理を行なっていない。
(2017.07.20 menscyzo)

 似たような釣りタイトルで煽っていても、アサヒ芸能の記事のほうは厚生労働省エイズ動向委員会の統計や福岡市保健福祉局のコメント程度は併記している。専門家が監修するまでもなく、自治体や厚生労働省がネットに公開している統計を見ただけでわかるデタラメな説だけを載せてしまうのは、安易に消費できる差別的ネタ記事が求められる構造が、NEWSポストセブンにもあるのだろう。
 なぜこんなデタラメなことがまかり通ってきたのか。ある医療情報サイトの元編集長が語る。
「ネットサイトも慈善事業でやっているわけではありません。“1クリックいくら”という広告ビジネスで、経営者からは“とにかくコストをかけずにたくさん記事を配信してビュー数を稼げ”と要求されます。海外の医療情報サイトでは、医師や研究者などプロの医療関係者が監修するなどして内容をチェックする体制があります。ただし、そうすると1本の記事を作るのにコストがかかりすぎる。手っ取り早く稼ぐために、監修者を置かず、他のサイトを丸パクリし、記事をまとめるライターにもギャラは1本1000円ぐらいしか払わないということが横行してるんです」
 そのようにして、もはや匿名のネット掲示板の内容と大差ない記事ができあがる。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏はこう指摘する。
「IT企業はコンテンツ(記事)に“愛”がないんです。真実を書こうとか、噂を流さないようにしようとか、取材先に敬意を払うとか。もし間違った内容を書いても、記事を削除すればいいぐらいにしか考えずに、十数年もやってきた。
 ネットメディアが乱立してきたので、編集の訓練をされている“プロの編集者”がそもそも少ない。著作権も肖像権も差別用語も薬機法も知らないまま、サイトの責任者をやっている人も多いんです」
 DeNAがサイトを閉鎖した後、他のIT企業が運営している同じようなサイトでも同じようなトンデモ記事が見つかり、こっそりと次々に削除されている。ネット拝金主義の“バカの壁”は高い。
(2016.12.15 NEWSポストセブン ※女性セブン2017年1月1日号)

…………
【追記】このあと、週刊SPA10/31号でも後発記事「福岡発[エイズパンデミック]の恐怖」が掲載されたが、この内容もひどかった。中洲の風俗街を取材したというが、福岡市内の女性HIV感染者・エイズ患者数がごく少数しかいないことは書いてない。記事の後半では「アジアで唯一、同性婚が認められており社会全体が同性愛者に寛容」な台湾に遊びに行くゲイからの感染を「感染の広がりは日本の比ではない」と危険視しているが、アジア諸国の中では台湾のHIV罹患率は比較的少ないほうなのに、もっとHIV罹患率が高く旅行者も多いタイなどの国名を出さずに台湾だけ名指しするのは不自然。同性婚への偏見を煽る目的の文章にしか見えない。そもそも台湾でHIV感染が急増したのは薬物使用者による注射器の回し打ちが原因で、同性婚は関係ない。
…………


・関連
→ 法輪功が捏造した「陰性エイズ」デマを夕刊フジが拡散
→ TVタックルで性感染症自己責任論
→ デタラメなエイズ噂話をネタにした週刊誌の記事
→ HIV感染者への偏見を広める夜回り先生の被害妄想

2017.06.17 Saturday

今後排除される危険性があるのは性犯罪を扱う創作物だけではない

 昭和の治安維持法と同様、現実の犯罪を実行していない一般人でも、犯罪っぽいことを計画したとみなされただけで処罰の対象になりかねない共謀罪は、過去に繰り返し国会で審議され廃案になってきた経緯があります。ところが今国会では「組織犯罪処罰法改正案」に「テロ等準備罪」を新設する名目なのにテロとは無関係に対象犯罪を大幅に拡大した法案として提出され、政府の趣旨説明も一貫しないまま、衆議院では強行採決、参議院では委員会を省略する異例の「中間報告」で採決を強行され成立してしまいました。
 過去の国会で議員として共謀罪審議に関わっていた保坂世田谷区長のブログでは、成立した共謀罪の多くの問題点がわかりやすく指摘されています。
保坂 じゃあ、「等」とはなにかというと、テロを除くすべての組織的犯罪だというわけです。「等」のところが非常に多い。外務省は「テロ等準備罪」という言葉を使わないんですよ。「計画罪」という言い方をしています。これはあまりにも、矛盾があるからですね。ここには、印象操作があると思います。
「テロ等準備罪」と聞くと、多くの人は一本の法律ができるんだと勘違いします。「テロを共謀の段階で取り締まる一本の法律」というイメージです。実際には、爆弾や生物化学兵器などのテロに対しての共謀罪とか予備罪は、すでに日本にはある。そのことをちゃんと理解する必要があります。
(2017.05.02 保坂展人 鈴木耕 矛盾だらけの「共謀罪答弁」と「テロ等準備罪」という印象操作(対談・動画))
金田法務大臣は「一般の人は捜査の対象とならない」と述べながら、盛山法務副大臣は、「捜査上、一般の人を対象とした調査はありえる」としていて、答弁は食い違っています。これまでの政府の説明は、「組織的犯罪集団を対象とするもので、およそ一般の人が対象になるものではない」というものでしたが、「組織的犯罪集団」の定義や範囲が、大きな論点となります。「正当な目的で活動する団体でも、変質して組織的犯罪集団となる場合がある」とも言われています。
(2017.04.24 保坂展人 「277の共謀罪」に「テロ等準備罪」がないのはなぜか?)
ここからが問題です。「一般の人」と自他共に認識している人であっても、「組織的犯罪集団との関与」が疑われる事態となり捜査対象となった段階で、「一般の人」ではなくなる。つまり、捜査対象となったのは「非・一般の人」なので、「一般の人」を捜査対象としたことにはならないという理屈です。金田大臣の答弁を分解するなら、「仮に、組織的犯罪主集団に関わる者として『一般の人』の人が捜査対象になったと考えると、その時点で『一般の人』とは呼べない存在になるから、あくまで『一般の人』は無関係である」という論旨が答弁の本質なのではないでしょうか。
(2017.05.10 保坂展人 共謀罪の対象ではない「一般の人」はどこにいるのか?)
 「犯罪の主体を組織的犯罪集団に限定したので一般人は処罰対象にならない」としていた点も今月に入って説明が変わった。一日の参院法務委で金田勝年法相は「組織的犯罪集団と関わりがある周辺者が処罰されることもあり得る」と答弁を一転。林氏も「構成員以外を一般人というのなら、一般人が計画に参画することはあり得る」と認めた。
(2017.06.14 東京新聞)

 恣意的な運用の危険性が指摘されているにもかかわらず、法案を審議する国会では、野党議員に自民党の土屋正忠理事が「テロ行為だ」とヤジを飛ばしていました。どういうつもりなのでしょうか。
 「共謀罪」法案を審議した二十一日の衆院法務委員会で、法務省の林真琴刑事局長の席に詰め寄った民進党議員に、自民党の土屋正忠理事が「テロ行為だ」とヤジを飛ばしたとして、民進、共産両党が抗議した。
(2017.04.22 東京新聞)

 そして共謀罪の成立と同じ日に埼玉県警は、複数の性犯罪で逮捕されていた性犯罪者が1件の犯行について「(著作権者に無許可でネットに公開されていた)成人向けの同人漫画をまねてやった」と供述したことを理由に、その性犯罪者とは面識がない漫画家の自宅を訪問、法的根拠もないのに漫画家側に対して「作品内容が模倣されない配慮」などを要請し「少女が性的被害に遭うような漫画は今後書かない」との返答があったとして「(他の事件でも)同様のケースがあれば今後も申し入れを検討する」意向を複数の新聞社に伝えました。どういうつもりなのでしょうか。
 県警は今月7日に漫画家を訪ね、作品内容が模倣されないような配慮と、作中の行為が犯罪に当たると注意喚起を促すことなどを要請した。漫画家は「少女が性的被害に遭うような漫画は今後描かない」と了承したという。県警幹部は「表現の自由との兼ね合いもあり難しいが、社会に与える影響を考慮した。同様のケースがあれば今後も申し入れを検討する」としている。
(2017.06.14 毎日新聞)

 もし犯罪者が手口を模倣する可能性が本当に問題なら、この新聞記事などで事件の手口を公開することにも同じ問題があるはずです。なぜ漫画家だけ自粛要請されたのでしょうか。
 弁護士など多くの人が埼玉県警の行動について疑問を呈していますが、暴力的な漫画を描いていた漫画家が配慮を求められるのは当然であるかのように警察の圧力を擁護する人もいるようです。しかしこの性犯罪者は漫画に描かれていた手口以外でも複数の性犯罪で起訴されている常習犯であり、漫画を排除すれば性犯罪を犯さなくなるわけではありません。そして、どの新聞社の記事を見ても埼玉県警は「エロ漫画限定で自粛要請する」とは言っていません。警察は「申し入れ」圧力の前例作りとしてエロ漫画家を利用したかっただけです。
 2009年には、警察がコンビニに対して暴力団を扱った漫画の取り扱い自粛要請を行った前例もありました。極端な対象を選びながらじわじわと前例を踏み越え、治安維持法があった時代のように、すべての出版物について憲法違反の検閲を正当化しようとしているようにも見えます。
 刑法学者で、共謀罪に反対の論陣を張ったことでも知られる京都大学・高山佳奈子教授は「表現の自由に対する重大な脅威」と懸念を表明。AERA dot.の取材に「性表現は弾圧されやすいが、同じ理屈ならミステリー小説やホラーなども規制されるべきことになってしまう」とコメントし、また「そもそも有害図書等規制が行われている趣旨は“子どもがまねをする”ためで、大人はまねをしないことが大前提。(表現物を)勝手にまねをする大人が出ても、それは100%その個人の責任」と、容疑者の供述に何ら正当性がないことを強調する。
(2017.06.15 AERA dot. 佐藤圭亮)
 この〔福岡県警から福岡県コンビニエンスストア等防犯協会への〕要請書には、「これらは暴力団を美化する風潮があり、青少年が誤った憧れを抱き、暴力団に加入してしまう恐れがあることから、売り場からの撤去を検討すべきだと考えている。ご理解の上、適切な措置をお願いしたい」とあった。
(「暴力団排除」と言論規制/宮崎 学)

 2017年の国会では禁欲教育論者の自民党・赤枝恒雄衆院議員が、青少年同士の出産問題を扱った性描写のない漫画原作の映画「コドモのコドモ」を名指しして、別のドラマの話と混同させるように映画とは異なる内容を語り、悪影響だと中傷していました。「コドモのコドモ」は原作漫画にも映画にもいっさい性描写がない作品ですが、映画が公開された2008年当時に、元「世界日報」記者で、安倍晋三・岡崎久彦の対談本「この国を守る決意」の編集者で、「新しい歴史教科書をつくる会」元理事で、「美しい日本をつくる会」代表だった純潔教育論者の桜井裕子らがチャンネル桜などで誇張した解釈をもとに批判を行っていたため、いまだにデタラメな伝聞情報だけで中傷され続けているようです。
 以前から性教育弾圧を行ってきた自民党は宗教色の強い青少年政策を推進し、表現規制を強める「青少年健全育成基本法案」も繰り返し提出しているので、今後は警察がこのようなカルト議員の指示で、性教育的な趣旨であっても青少年の出産問題を扱う創作物全般に自粛を求めるような危険性も考えられます。
 社会の中のいろいろなメディアも悪いんですけれども、「十四才の母」なんていう大ヒットしたテレビ番組があったんですね。「十四才の母」、これはよくできていました、ストーリーが。塾に行って、塾に行っているということで、ちょっと遊んでいて、女の子とたまたま川に入っちゃって、ぬれたから乾かそうと思って小屋に入ったら、そういう関係になっちゃったということ。僕たちこれでいいの、いいのと言いながらしちゃっているんですけれども。
 それから「コドモのコドモ」という、これは小学生同士が、くっつけっこというのがはやった時期があるんですよ。くっつけっこをやったときに、やはりできちゃった。
 今言ったとおり、日本では合法ですよ、十四歳のセックスは。ところが、外国、八十九カ国は、十四歳の性行為はレイプ事件ですよ。ましてや小学生は。しかし、日本ではそれは認められていて、こういうメディアの番組の悪いのは、そういう、子供たちが性行為をして、結末はみんなハッピーエンドです。最初は親は反対していた、ずっと。おろしなさい。病院まで行った。だけれども、子供は逃げて帰ってきて、嫌だ、産みたい。親も反対していたけれども、産んだ。その後は、おじいちゃんもおばあちゃんも子供を愛してくれて、ハッピーエンド。
 僕は、こういう余り好ましくない行為自体がハッピーエンドで終わっているというのは、子供たちに対する影響も余りよくない。
(2017.02.22 赤枝恒雄衆院議員 第193回国会 予算委員会第三分科会)
「コドモノコドモ」という映画です。これはフィクションですが、11歳、小学校5年生の春菜ちゃんという子が子供を産むというものです。ランドセルを背負った小学校5年生が子供を産むというストーリーでございますけれども、日本ではこれまで「14歳の母」というテレビドラマがございました。
(2008.09.28 桜井裕子)

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