2017.10.03 Tuesday

「九州でエイズ急増したのは風俗客の中国人が原因」説はデタラメ

 自称「ネトウヨ」ライター森鷹久による「九州でエイズ急増したのは風俗客の中国人が原因」説がNEWSポストセブンに掲載されていた。しかし、感染症法で全数報告が義務付けられているHIV感染者・エイズ患者数の統計では、九州地域で近年増加しているのは日本人男性のエイズ患者ばかりで、日本人女性のほうは新規HIV感染者とエイズ患者を合計しても九州地域ではこの10年だいたい年間5人前後。そして外国人男性や外国人女性の新規HIV感染者・エイズ患者は、九州地域では数年に1人程度。「風俗客の中国人が原因」説にはまったく根拠がない。
 福岡県福岡市で派遣型風俗店を営む男性(49)は、中国や韓国など、大陸方面からやってくる男性観光客の増加が、HIVやその他の性病の蔓延の原因だと分析している。
「関西方面で、抗生剤の効かない新種の淋病が流行った時も、二年前くらいから梅毒患者が増えたことも、そして今回のHIV感染も、全部外国人観光客の、特に中国人観光客が増えたタイミングとぴったり一致しとるでしょう。金持ちの客は女の子にチップをたっぷり渡して、密かに本番行為を迫ってくる。それが当たり前になっとったけど、黙っとったらこの状態になった。
 梅毒やら淋病ばうつされるくらいならまだマシやったけど、HIVてなるとね……。あっち(中国)では、福岡は食い物と女の子の街て言うて紹介されとる事もあると。あと、九州の人はゴム(避妊具)をつける習慣が、関東や関西に比べて少なか気もしますね。夫婦や彼氏彼女の関係だったら、油断してゴムをつけない」
(2017.09.30 NEWSポストセブン 森鷹久)
 これに対し、県内最多となる計63人という報告数を出した福岡市を直撃すると、保健福祉局健康医療部保健予防課の担当者が状況を説明する。
「実は、この1年前の15年の報告数は計27人とかなり少なかった。そのため、増加率がハネ上がったのです。つまり、一昨年にきちんと検査を受けておらず、昨年にいきなりエイズを発症したケースが数字に反映されたのではないかと見ています」
(2017.10.02 アサヒ芸能 2017年10月5日号)
 新規報告者数(15年)で全国の感染者・患者の内訳は、日本人男性が約9割、感染原因は同性間性的接触が最多の約6割だった。福岡県も全国と同様の傾向だが、患者が3割程度の全国データに対して、福岡県の患者比率はほぼ半数で、発症してから報告されるケースが際立っている。
(2017.09.19 西日本新聞)
福岡市HIV感染者等情報(平成28年12月末現在)

(2017.09.29 福岡市保健福祉局健康医療部保健予防課)

 報道の常套句「日本だけがエイズ拡大」は誇張で、全国的には年間報告数は横ばい傾向なので、九州地域の報告数増加が話題になってるだけ。人口あたりの感染数が極端に多いわけではない。
報告地(医師により届出のあった地):東京都を含む関東・甲信越(HIV感染者514、AIDS患者185)、近畿(HIV感染者185、AIDS患者77)に多い。人口10万対では、HIV感染者数およびAIDS患者数上位10位に九州、四国の県が含まれる(表)。
(IASR 2017年9月号「HIV/AIDS 2016年」)
新規患者の年齢分布
年齢別の割合をみると、HIV感染者では20代〜30代が最も多く、AIDS患者では30代〜40代が最も多く推移しているが、2011年以降50歳以上の新規HIV感染者・AIDS患者総数が増加し、特にAIDS患者に占める50歳以上の患者の割合が急増している。また、70代、80代の新規感染者の報告がある一方で10代の新規感染者も認められており、感染年齢層の拡大が懸念される。
(IASR 2017年9月号「福岡県のHIV感染者・AIDS患者の動向」)

 梅毒やクラミジアなど「1回のセックスだけでも感染する可能性が高い」タイプの性病は、風俗店など不特定多数との接触で異性間感染が拡大しやすい。日本でも近年の梅毒感染拡大では、同性間感染の増加だけではなく、若い女性患者が急増している。ちなみに梅毒の感染拡大は最近の日本や中国だけの現象ではなく、日本でも欧米先進国などでも数十年周期で感染拡大と減少を繰り返している。
 全体の約7割を占める男性は各年齢層から偏り少なく報告されているが、女性は20代が女性全体の5割超を占め、感染増加が目立つ。男性の同性間の性的接触による感染だけでなく、近年は異性間での感染も広がり、患者増加に拍車がかかっているとみられるが、原因ははっきりしない。
(2017.01.13 朝日新聞)
梅毒はペニシリンによる治療が確立され、第二次世界大戦後以降、罹患数は大幅に減少した。しかしながら、先進国を中心に男性と性交をする男性(men who have sex with men: MSM)を中心とする報告が近年増加している。
(IASR 2015年2月号「近年の梅毒の国外動向」)

 ところが、HIVのように「1回のセックスだけでは感染する可能性が低い」タイプの性病は、コンドームを使えば感染しないので、生でアナルセックスを行う層の感染確率と膣性交しかしない層の感染確率に極端な差が出る。都市部で一般的な、フェラや素股などの擬似行為が中心の風俗店では、他の性病の感染拡大はあってもHIV感染は拡大しにくい。
 統計でも、同性間HIV感染は有名なハッテン場がある都市部の割合が多いが、異性間HIV感染は風俗街の規模とは比例せず、風俗嬢が性病検査を受けやすい病院の多い都内では感染拡大への影響が少ないように見える。年40人程度しかいない日本人女性HIV感染者・エイズ患者の年齢層は幅広く、増加もしていない。日本では女性HIV感染者・エイズ患者の約半数は出産が前提の妊婦健診で発覚していて高齢層でも夫婦間感染の割合が多い。いわゆる「ゆきずりのセックス」や一般的な性風俗店での行為よりも、性病検査を受けずに特定の相手と生中出しを繰り返す関係のほうが、確率的にはHIV感染しやすいからだ。

 しかしこれは近年だけの傾向で、警察ドキュメント番組でよく登場する手口の海外からの人身売買による違法売春店を警察が長期的に泳がせていた1990年代には、地方の外国人売春パブなどで異性間のHIV感染拡大が起きていた。人身売買事件では、パスポートや通帳が取り上げられるなどの手口で、女性たちが自発的に検査を受けにくい状況にされ、性病の蔓延を招いたようだ。
 海外でも、娯楽の少ない地域で働く出稼ぎ労働者たちに、売春婦などを経由してHIV感染拡大後、さらに夫婦間でも感染拡大したとされる事例は多くの国にある。おそらく病院や保健所などが少なく、売春婦も常連客もその妻も長期的に性病検査しない環境だったことが共通する原因と考えられる。
 このため日本のHIV統計では1990年代、日本人女性よりも外国人女性の新規HIV感染者・エイズ患者のほうが多い時期があったが、人身売買摘発までの期間が短縮されたのか、近年では外国人女性の報告数は激減している。
「店にはタイ人が5人いたけど、売春をするのはビザのない者だけ。客の多くは40歳以上で、ほとんどがコンドームを使うのを嫌がった。10人いたら使うのは良くて半分。付けてと頼むと次から指名はなくなった。大きな声でののしられたこともあるし、店からも客に逆らうなと怒られた。大きな借金が残っているので従うしかなかった」と彼女は辛かった日々を振り返った。
「だからHIVに感染したのは、日本人客からだと確信している。タイで出産したときに受けた検査では陰性だったし、その後は夫と別れ、ほかに身の覚えもまったくない」
 平成16年から昨年までの4年間で、タイ大使館が把握している人身売買被害は62件。うち半数以上の34件が長野県で発生している。この数字は、警察による検挙や被害者本人が助けを求めるなどして明らかになったケースで、実数はそれよりはるかに多いが、確かなのは長野県が人身売買の一大拠点となっていること。
(2008.08.01 産経新聞 2ch.net
国籍別、性別、年齢階級別の年次推移(HIV感染者)

(2016.05.25 エイズ発生動向年報 厚生労働省エイズ動向委員会)
(注・10歳未満の新規HIV感染報告は母子感染)
 厳密には「風俗のない県」なんてありませんが、一般的には、長野はそう言われています。でも、実はめっちゃたくさんの風俗があるんです。
 デリヘルはもちろん、以前このコラムでも書いたように松本市には風俗ビルまであり(※1)、繁華街には闇営業の店舗型ヘルスも複数存在するほど。ないのは、届出済みの店舗型ヘルスとソープランドだけというわけなんです(実はヘルスは1軒だけある)。
 風俗店を開業するには地域の公安委員会への届け出が必要なんですが、店舗型の場合、長野県はその受理を行なっていない。
(2017.07.20 menscyzo)

 似たような釣りタイトルで煽っていても、アサヒ芸能の記事のほうは厚生労働省エイズ動向委員会の統計や福岡市保健福祉局のコメント程度は併記している。専門家が監修するまでもなく、自治体や厚生労働省がネットに公開している統計を見ただけでわかるデタラメな説だけを載せてしまうのは、安易に消費できる差別的ネタ記事が求められる構造が、NEWSポストセブンにもあるのだろう。
 なぜこんなデタラメなことがまかり通ってきたのか。ある医療情報サイトの元編集長が語る。
「ネットサイトも慈善事業でやっているわけではありません。“1クリックいくら”という広告ビジネスで、経営者からは“とにかくコストをかけずにたくさん記事を配信してビュー数を稼げ”と要求されます。海外の医療情報サイトでは、医師や研究者などプロの医療関係者が監修するなどして内容をチェックする体制があります。ただし、そうすると1本の記事を作るのにコストがかかりすぎる。手っ取り早く稼ぐために、監修者を置かず、他のサイトを丸パクリし、記事をまとめるライターにもギャラは1本1000円ぐらいしか払わないということが横行してるんです」
 そのようにして、もはや匿名のネット掲示板の内容と大差ない記事ができあがる。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏はこう指摘する。
「IT企業はコンテンツ(記事)に“愛”がないんです。真実を書こうとか、噂を流さないようにしようとか、取材先に敬意を払うとか。もし間違った内容を書いても、記事を削除すればいいぐらいにしか考えずに、十数年もやってきた。
 ネットメディアが乱立してきたので、編集の訓練をされている“プロの編集者”がそもそも少ない。著作権も肖像権も差別用語も薬機法も知らないまま、サイトの責任者をやっている人も多いんです」
 DeNAがサイトを閉鎖した後、他のIT企業が運営している同じようなサイトでも同じようなトンデモ記事が見つかり、こっそりと次々に削除されている。ネット拝金主義の“バカの壁”は高い。
(2016.12.15 NEWSポストセブン ※女性セブン2017年1月1日号)

…………
【追記】このあと、週刊SPA10/31号でも後発記事「福岡発[エイズパンデミック]の恐怖」が掲載されたが、この内容もひどかった。中洲の風俗街を取材したというが、福岡市内の女性HIV感染者・エイズ患者数がごく少数しかいないことは書いてない。記事の後半では「アジアで唯一、同性婚が認められており社会全体が同性愛者に寛容」な台湾に遊びに行くゲイからの感染を「感染の広がりは日本の比ではない」と危険視しているが、アジア諸国の中では台湾のHIV罹患率は比較的少ないほうなのに、もっとHIV罹患率が高く旅行者も多いタイなどの国名を出さずに台湾だけ名指しするのは不自然。同性婚への偏見を煽る目的の文章にしか見えない。そもそも台湾でHIV感染が急増したのは薬物使用者による注射器の回し打ちが原因で、同性婚は関係ない。
…………


・関連
→ 法輪功が捏造した「陰性エイズ」デマを夕刊フジが拡散
→ TVタックルで性感染症自己責任論
→ デタラメなエイズ噂話をネタにした週刊誌の記事
→ HIV感染者への偏見を広める夜回り先生の被害妄想

2011.06.19 Sunday

法輪功が捏造した「陰性エイズ」デマを夕刊フジが拡散

 病気ではないのに自分は重病だと思い込んで症状を訴え続ける心気症は、昔から世界中によくある心の病気(身体表現性障害)のひとつです。HIV検査を受けて感染してないことがわかっても「自分は感染してる」と思い込み続ける、いわゆるエイズノイローゼも心気症にあてはまることが多いようです。
 医者に病気ではないと診断されたのに「現代医学でもわからない奇病」などと思い込んでしまう場合は、心療内科・精神科で適切な診療を受け不安を取り除くべきなのですが、インチキ宗教やニセ医療のカモにされてしまう人もいるようです。
 医療や進化論を否定するカルト宗教団体「法輪功」の広報紙である「大紀元」が、数年前から「中国でエイズによく似た奇病」というデタラメな噂を広めていることはネットで話題になっていました。この噂については中国衛生省も自称患者たちの調査を行い「心理的な要因だ」という調査結果を今年の4月に発表しました。しかし、法輪功系メディアの大紀元や新唐人電視台はその報道を「未知のウイルス」「陰性エイズ」というデマにすりかえ、そのデマをなぜかチャンネル桜夕刊フジが日本で拡散しているようです。
 「夕刊フジが取材した」という2人の自称感染者の証言はまさに心の病気を疑われる内容で、奇病とは思えません。Aさんは「大学病院や総合病院、泌尿器科や性病科など30件ほど回ったが、原因は不明。心療内科にも行ったが『問題なし』」と証言していますが、たいした症状もないのに奇病だと思い込み仕事を辞めて異様な数の病院をまわってる人が心の病気を疑われないのは不自然です。この夕刊フジの取材ネタはチャンネル桜に出演してる坂東忠信という人のブログの5月の記事と酷似しているのですが、ブログ記事には「未知のウイルス」の元ネタが「大紀元」だということも明記されてます。さらにブログ記事ではこの自称感染者のできものはひどい症状ではなく「心療内科も3軒回った」とか「薬は効かないが健康食品が効く」と主張していることも書かれていますが、特定の健康食品だけが症状を軽減させるなんて宣伝する自称感染者たちの話は、半信半疑の読者もさすがにガセネタだと気付くでしょう。
 つまり夕刊フジの記者は「陰性エイズ」がどうしようもないガセネタだとわかってるはずなのに、元記事のヘタな嘘をごまかしたうえで、わざと「コンドームで防御できず?」なんて見出しで煽っているのです。
夕刊フジ2011年6月19日 中国を中心に、エイズに似た症状を訴えながら、検査では「陰性」と判定される患者が相次ぎ、「陰滋病」(陰性エイズ)として話題になっている。中国衛生省は「心理的な要因だ」としているが、新型肺炎SARSに立ち向かった中国の著名医師も研究を始めた。
(2011.06.18 夕刊フジ)
何百人という中国人が、自分がHIVに似た症状の新型疾患にかかったかもしれないと思う一方で、医師は、彼らの病気は身体的なものというより、むしろある精神的病状の結果ではないかと考えています。
(中国に広がる「HIV恐怖症」 BBCニュース 上海 クリス・ホッグ)
上記の症状一覧を見ての私の最初の印象は「あまりエイズに似ていない」。いわゆるエイズ(後天性免疫不全症候群)は、通常、HIVに感染してから数年間経ってから起こるため、「初期症状が主に性行為の後に出る」という点で決定的に異なる。強いて言えば、HIV感染後の急性期に起こる「HIV初感染症候群」に似てなくもない。HIV初感染症候群の臨床症状は伝染性単核球症に似ているとされている。伝染性単核球症の典型的な症状は発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹である。通常の風邪と区別がつかないこともあるとされる。要するに、HIV感染だけに見られる急性期の特別な症状はない。何より、急性期の症状は、数日から数週間で治癒するのがほとんどである。感染を心配している日本人のブログによれば、少なくとも数ヶ月は症状が持続している。自然治癒する疾患であれば、怪病として恐れられたりしないだろう。
未知のウイルスによるものという可能性はどうだろうか。SARS(重症急性呼吸器症候群)流行のときに、中国政府の対応は、WHOへの報告が遅れるなどの問題点があった。今回の件でも、中国政府が情報を隠蔽しているかもしれないという懸念が、「注意喚起」を目的とした情報拡散の一因になっているようである。しかし、上記引用している記事の日付は2009年6月である。ほぼ1年前である。もし、「感染経路も極めて多様で、そのスピードの速さには広範囲の感染被害が憂慮される」ような未知のウイルスが存在するならば、1年間近くもWHOなどの公的機関が気付かないなんてことがありうるだろうか? WHOには、中国政府の情報隠蔽に協力する動機はない。唾液や汗などでも感染するような「感染力の強い未知のウイルス」が事実だとしたら、何らかの陰謀論でも持ち出さない限り説明できない。
(2010.05.24 エイズに似た怪病が中国で急速に拡散しているという話はたぶんガセ - NATROMの日記)
心気症は、身体症状または身体機能に対して重病にかかっているのではないかという恐怖や考えにとらわれてしまう障害で、内科や外科を受診し適切な医学的評価や説明を受けても、現代医学でもわからない奇病にかかっているなどといった考えが持続します。規則的な身体的診察が日常生活の障害を防ぐために有用です。
(主な疾患と症状 外苑メンタルクリニック)
Q95 エイズノイローゼとは何か
A HIVに感染したのではないかという不安に始終つきまとわれて、HIV抗体検査結果が陰性であっても、その不安が解消されない人の場合や検査結果が陽性になるのではないかと心配するあまり検査を受けずに悶々とし精神的に大変不安定になる人の場合等をさす。
 前者の場合には、性格的に神経症タイプの人がなる場合や強迫神経症等の神経症の場合、心因反応や精神分裂症のエイズ妄想の場合等が考えられる。これらの場合には、神経科や精神科等での専門的治療を要することが多い。
 後者の場合は、心配性の人がなることが多く、検査を受けて不安を解消するよう時間をかけてくり返し勧めることが望まれる。
(厚生労働省 エイズ相談マニュアル)

 おかしなデマが中国で広まるのは、中国政府の感染症政策と情報隠蔽体質への不信感があるからだとしても、日本のメディアまでこんなデマ拡散に加担しているのは残念です。
 法輪功は2008年にも「中国でエイズスイカ」という差別的なデマを拡散したことで知られています。現実にはもしHIV感染者の血液を注射した食べ物を出荷しても、食べた人がHIV感染する可能性はありません。このデマに類似したバカ設定の、HIV感染者の血液を牛乳に入れて飲ませるという日本の小説「告白」も、読者の誤解を招く描写だと批判されていました。
HIVの感染は、通常血液同士の接触か、性交渉以外では成立しません。勿論ウイルスを多量に含む血液を大量に飲めば、口の粘膜からウイルスが侵入する可能性はありますが、牛乳に混入した程度では感染成立の可能性は、殆ど存在しないでしょう。お母さんの母乳からお子さんに感染した事例はあるのですが、それは量が大量であることと、赤ちゃんの胃腸の免疫機能が、まだ未熟であるためと考えられます。
おまけにこのパートナーは、HIV感染症の治療中なのです。治療中の血液には、もうウイルスは殆どない筈です。従って、感染する可能性も更に低下するのです。
ここまで読んで頂ければ、この方法が実現可能性は殆どないのに、「HIV患者の血液は毒である」という、嫌な気分だけを残し、ある種の誤った病気への感覚を、助長する役割しか果たさないということが、お分かり頂けるのではないか、と思います。
(2009.04.23 「告白」の嘘(ネタばれ注意):六号通り診療所所長のブログ)
 中国当局の統計では、人口13億の中国で、少なくとも74万人のHIV感染者やエイズ患者が存在するが、実際は当局の数字より、さらに多いとみられる。
 こうした人びとは、長い間、偏見や差別にさらされてきた。だが、最近では政府が公にHIV感染の予防を呼びかけていることもあり、HIV感染者らを取り巻く状況は改善しつつある。
 しかし、ILOが18日に発表した報告書によると、中国の医療機関におけるHIV感染者差別はなくなっていない。その主要因は2つある。
 多くの総合病院では、HIV陽性者というだけで患者を自動的に感染症専門の病院に押し付けている。だが、専門医療機関が受け入れるのは、HIV/AIDS治療が目的の患者のみで、HIV/AIDSと直接の関係がない症状の治療は行っていない。
 さらに、中国の病院の多くは利益を優先するため、病院の経営者らが、HIV感染者を治療すれば、これを知った人びとが具合が悪くなった時に他の病院に行ってしまうと恐れていると、報告書は指摘している。
(2011.05.18 中国の病院で門前払いのHIV/AIDS患者たち、ILO報告書 AFPBB News)

・関連
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→ 抗HIV治療に関するよくある誤解
→ エイズ偏見で韓国HIV感染者の死因の約3割が自殺

2010.05.22 Saturday

2009年のHIV検査件数が減少、新規HIV感染者報告数も減少

 厚生労働省のエイズ動向委員会(委員長・岩本愛吉東京大教授)は12日、国内で2009年に新たに報告されたエイズウイルス(HIV)感染者は1008人、エイズ患者は420人で、計1428人との速報値を発表した。08年の確定値(1545人)比で8%減。03年以降、過去最多を更新し続けていたが、7年ぶりに減少した。
 ただ感染の有無を調べる抗体検査件数は08年から約15%減少しており、これが影響したとみられる。新型インフルエンザ流行でHIVへの関心が薄れたり、啓発不足になっている可能性もあり、厚労省の担当者は「危機感を持っている」と話した。
 感染者・患者の94%は男性。感染経路では同性間の性的接触が62%、異性間が24%だった。ほとんどの年代で感染者は前年より減ったが、30代だけが4%増の581人で、人数も全年代を通じて最も多かった。
(2010.02.12 共同通信)
 〔HIV検査件数の〕減少の理由としては、新型インフルエンザのほか、公共広告機構(現ACジャパン)によるPRが今年6月末で終了した影響も考えられるという。同委員会委員長の岩本愛吉東京大教授(感染症学)は「深刻な事態。12月1日の世界エイズデーのイベントなどを通じ、検査の重要性を周知したい」と話している。
(2009.11.24 読売新聞)
 厚生労働省エイズ動向委員会から2009年の国内の新規HIV感染者・エイズ患者報告数の速報値、東京都福祉保健局から都内の新規HIV感染者・エイズ患者年間報告数が公開されています。それぞれ詳細な年報は例年6〜7月に公開されます。
……
【追記】厚生労働省から2009年の確定値が発表されました。
 厚生労働省のエイズ動向委員会の岩本愛吉委員長(東大医科学研究所教授)は5月27日、2009年のエイズ発生動向の概要について発表した。09年の年間報告(確定値)によると、新規HIV感染者は過去最高だった08年の1126件から105件減の1021件で、新規AIDS患者は過去最高だった08年と同数の431件だった。
 保健所などにおけるHIV抗体検査件数は15万252件で、前年比2万6904件減だった。岩本委員長は、新規HIV感染者の報告数と検査件数の減少について、「一見、同期しているように見えるが、それが本当に同期しているのか、検査が減ったから感染者の報告も減ったのかということに関して、まだ結論付けるのは早いというのが動向委員会の委員の考えだ」と述べた。
 また、新規のHIV感染者とAIDS患者に占めるAIDS患者の割合が、08年の27.7%から09年は29.7%に増加している点について岩本委員長は、「エイズを発症して感染が見つかる方の数が増えている。まず、検査機会などを利用して早めに治療してもらうことが非常に大事と思っている」と強調。
 さらに、地域ブロック別の患者の新規報告数で、「東京を中心とした関東ブロック等では、エイズ報告数は減少あるいは頭打ちの傾向を示しているのに、近畿、九州でエイズとして発見される方々が増えていることは非常に問題が大きい」と述べ、検査機会が十分なのかなど原因を精査する必要性を指摘した。
(2010.05.27 キャリアブレイン)
……

 厚生労働省エイズ動向委員会の発表からは、
  • 新規HIV感染報告数が前年比9%減少(2007年と同程度で過去3番目に高い水準)。
  • 全国保健所等での無料HIV検査件数が前年比16%減少(2007年以前の水準)。相談件数も前年比16%減少。
  • 献血件数は前年比4%増加しているが、献血者中のHIV陽性件数が前年比4%減少した(献血10万件当たりの陽性件数は1.9件で、前年比8%減少)。
  • 検査件数減少により、エイズ発症まで感染に気付かない割合が増加。年齢別では、30代および30歳以上の新規エイズ患者数が増加。
 東京都福祉保健局の発表からは、
  • 都内では新規HIV感染報告数は前年比17%減少したが(2006年と同程度)、新規エイズ患者数は前年比4%増加。
  • 都内では新規HIV感染者数・新規エイズ患者数とも40歳以上が増加し、40歳未満が減少している。
  • 無料HIV検査件数は都内保健所では前年比10%減少、南新宿検査・相談室では前年比6%減少。相談件数も前年比12%減少。
ということがわかります。
前年と比較して、検査件数が約27,000件、相談件数が37,000件減少した。その一因として、新型インフルエンザの影響を受けた可能性は否定できない。
(2010.02.12 エイズ動向委員会 委員長コメント)
 同性間性的接触による報告数は、増加傾向であったが、平成21年は前年と比べ80件減少した。
 異性間性的接触による報告数は、100件弱で推移している。
(2010.03 東京都福祉保健局健康安全部感染症対策課エイズ対策係)
 実際には病院などでHIV検査を受けている人のほうが多いとはいえ、保健所等で自発的に無料HIV検査・性病検査を受ける人のほうがHIV陽性率が高いので、保健所等でのHIV検査件数の減少と連動して新規HIV感染報告数が減るのは良くない傾向です。地域差はありますが、全国的にこの傾向が続くとエイズ発症まで感染に気付かない割合が高くなり、感染拡大につながります。
 たとえば東京都エイズ専門家会議の報告では、保健所等での無料HIV検査の受検者の約8割が40歳未満とされていました。ところが2009年の都内の新規エイズ患者は約6割が40歳以上です。
 昨年全国的に保健所等でのHIV検査件数や電話相談件数が減少したのは、テレビCMが終了したことと、新型インフルエンザ対策の影響で、無料HIV検査の日程や啓発が減ったことが原因とされています。たとえば毎年12月は世界エイズデーのキャンペーンで検査件数が多いのですが、2009年は例年より減少しています。
 そして昨年のHIV感染報告数が減った影響で今年はニュースなどでHIVについて扱われる機会も少なくなっているようです。しかし、これまでHIV感染者数増加というニュースはメディアでは単に不安を煽る若者叩きネタや感染者差別の道具として使われることも多かったので、ただメディアに露出すればHIV検査件数が増えるとは思えません。
 地方の保健所では、定期的な無料HIV検査を平日月1〜2回、数時間しか行わない傾向があるので、数年前まで年間HIV検査件数は横ばいの地域が多かったのですが、週末などにも臨時無料HIV検査・性病検査を不定期に行うことで、2008年の保健所等でのHIV検査件数は2002年の約3倍に増加していました。2003年から2008年まで日本でHIV感染報告が増え続けていたのは、全国の保健所が無料HIV検査・性病検査の日程を増やした効果も大きかったはずです。
 全国で唯一毎日無料HIV検査を行っているため検査件数の増減が少ない東京都南新宿検査・相談室でも、昨年の検査件数は過去6年間で最も少なかったようですが、HIV検査件数を増やすにはやはりまた全国的に無料HIV検査の日程や啓発を増やしていく必要があるでしょう。
 ちなみに厚生労働省とエイズ予防財団では2007年から5年間でHIV抗体検査受検者を2倍にするという目標で研究事業を行っているらしいのですが、2008年に大阪で実験的に啓発広告キャンペーンを行った際にはせっかく検査希望者が増えたのに全員が無料HIV検査が受けられる環境を用意してなかったそうです。
 また、本研究のキャンペーンに伴って、受検者数の大きな増加が認められたために、大阪府内等で、検査体制のキャパシティを超える状況が生じた。
(エイズ予防のための戦略研究 _ 研究課題2 平成20年度報告書)

 さて、日本赤十字は昨年まで献血者のHIV陽性率の微増の要因を献血者だけのせいにした「検査目的で献血する人が増加」というコメント発表を毎年続けていて、2005年の献血者のHIV陽性率が減少したときは「検査目的の献血が減少」と発表していたようですが、2009年の献血者のHIV陽性率が微減したことについてはなにもコメント発表しないようです。日本赤十字の統計によれば、梅毒などによる献血不合格数と比較してもHIVが理由の献血不合格数は極端に少なく、HIV以外の原因を含めた検査不合格率も減少が続いているので、事前の問診で嘘をついて故意に検査目的で献血する人が現実に問題になるほど多かったとは思えません。
 もともと日本の献血者のHIV陽性率は、妊婦のHIV陽性率の半分以下で、それほど高くありませんでした。都内保健所の統計を見ても、保健所等で自発的に無料HIV検査を受ける層のHIV陽性率は、献血者全体のHIV陽性率の100倍以上も高率です。
 これまで献血常連者からHIV陽性が出ていたこともわかっているのに、日本赤十字が「感染の疑いがある方は、絶対に献血しないで下さい」という発表しか行ってなかったのは的外れです。昔から指摘されているように、日本赤十字が献血前の問診で、献血者がコンドームを使用しているか確認し、献血者にコンドームの必要性を周知すれば、HIVなど性感染症による献血不合格率はさらに減らすことができるはずです。

・関連
→ 日本赤十字社は献血の問診項目を変更するべきだ
→ 「HIV検査目的の献血」は本当に多いのか
→ 日本で新規エイズ患者数が減らない理由

2009.02.12 Thursday

日本赤十字社は献血の問診項目を変更するべきだ

例年この時期に日本赤十字社は年間のHIV感染者による献血件数を発表し、毎年「検査目的で献血している人が増加」と報告し続けている。
 平成20年に献血した人のうち、エイズウイルス(HIV)抗体検査で陽性となった人は107人で、前年より5人増え、過去最高を更新したことが10日、日本赤十字社のまとめで分かった。献血者10万人当たりの陽性者も2・107人で最高を更新した。
 同日の厚生労働省の血液事業部会運営委員会で報告された。日赤などは、HIV検査目的で献血者が増えているとみて、「血液製剤の安全性に影響を与えかねない。検査目的の献血は控えて」と呼びかけている。
(2009.02.10 産経新聞)
献血については、昨年もこのブログで
・HIV検査目的の献血希望者は問診で献血を断られる。
・HIV検査目的ではない献血常連者からHIV陽性が見つかっている。
・検査目的などで献血を断られた人を対象にしたHIV検査ではHIV陽性は見つかってない。
・献血件数全体に占めるHIV陽性の割合は、妊婦のHIV感染率の半分以下。

という内容の文章を書いた。献血のHIV陽性率が微増しているのは、一般集団のHIV陽性率が増えていることが主な原因だろう。
新規の献血者17,200名を含む総献血者174,630名についてHIV抗体検査を実施した結果、一次検査陽性者は79名(0.45%)、二次検査陽性者は6名(0.003%)と例年と同様であり、最終確認検査でも陽性を示したのは献血回数43回の30歳の男性献血者1名(0.6/10万人)のみであった。
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新たな試みとしてHIV検査を目的とした献血を防止するために、行政機関と協議の上、問診票13番〔検査目的〕、14番〔性的接触〕の該当者に対して、献血ルームにおいてHIV検査サービスを試行した。該当率は移動採血車のそれに比して高く、20才代までの若年層が75%を占めた。検査希望者64名中HIV陽性者は無かった。
(2001 厚生省HIV社会疫学研究班)
輸血を必要とする患者さんへの感染を防ぐため、過去1年間に下記に該当する方は、献血をご遠慮いただいています。
・不特定の異性と性的接触を持った。
・男性の方:男性と性的接触を持った。
・エイズ検査(HIV検査)で陽性と言われた。
・麻薬・覚せい剤を注射した。
・上記の該当者と性的接触を持った。
(日本赤十字社 献血をご遠慮いただく場合)
日本赤十字社では問診によって、不特定の異性と性的接触を持った人や男性同性愛者に対してはなぜか献血を断っている。エイズ発症までの潜伏期間は10年以上にもなるので過去1年間だけを問題にする意味もわからないし、設問に「コンドームを使わずに性交している人」という項目がないのもおかしい。
HIV感染予防には性交相手が特定か不特定かよりもコンドームを使用しているかどうかのほうが重要な問題で、結婚相手からHIV感染する例も多い。男性同性愛者に対しても同様で、性交相手が同性か異性かということよりも、コンドームを使用しているかどうかのほうが重要な問題になる。日本赤十字社が献血の問診にコンドームに関する項目を加えれば、HIV感染予防にコンドームが重要であることも周知できるはずだ。
避妊してない人の献血を断ると、献血者数が減るという危惧もあるという。しかし妊娠中・授乳中の女性の献血はもともと断っているのだから、献血者数が減るというのもおかしな話だ。日本赤十字社は、HIV感染予防知識を普及させたくないのだろうか。
献血者が正確に申告してくれることを前提とした問診だけでHIV感染を予防するには、例えばウインドーピリオッドを3週間とすると、その期間内にコンドームなしのセックスをした全ての人の献血をお断りすることです。しかし、このようなことは献血者数を減らすだけであり、現実的ではありません。
(2000 医師・岩室紳也)
LGBT(L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー)向けポータルサイトを運営していたパジェンタの調査によれば、日本の同性愛者は全体で推定約274万人。男性同性愛者はせいぜいこの半分程度だろう。厚生労働省の人口動態統計によれば日本の年間出産数と死産数の合計は約110万人なので、過去1年間だけを問題にするなら「子供をつくるためコンドームを使わずに性交する必要がある男性」の人数と、男性同性愛者の人数は現実的にはそれほど変わらないようにも見える。もし日本赤十字社が、男性同性愛者に対して献血を断ることでHIV感染予防を啓蒙しているつもりなら、コンドームを使わない男性にも献血を断ったほうがいいだろう。
本当に輸血用血液からHIVを排除したいのであれば性的接触を「同性」「異性」とか「特定」「不特定」で分けても無意味なんですよ。
(1997 北海道セクシュアル・マイノリティ協会)
男性同性愛者を献血者から除外することは、厚生省が言い出したことだといわれている。献血の問診を合理的な設問に変更することを複数の団体が厚生省と日本赤十字社に約10年前に提案しているが、てきとうにあしらわれてその後まったく変更されてないらしい。
日本全体ではHIV感染者の7割が同性間感染だが、同性間HIV感染が多いのは都市部だけの傾向で、異性間HIV感染がほとんどという地域もある。日本赤十字社は毎年同じような報告をするぐらいなら献血の問診を現実的なものに変更するべきだろう。
全国は「同性間〔の性的接触によるHIV感染〕」の割合が高いが、長野県では圧倒的に「異性間」が高くなっている。
(長野県衛生部 長野県のHIV/エイズの現状と特徴)

・関連
→ 「HIV検査目的の献血」は本当に多いのか
→ 高齢者の性感染症

2009.01.29 Thursday

日本で新規エイズ患者数が減らない理由

 東京の実情に見合ったエイズ対策を検討する「東京都エイズ専門家会議」(座長・木村哲東京逓信病院長)は24日、「都内におけるエイズの現状〜現在の課題と今後の方向性」と題する最終報告書をまとめた。同会議は92年から毎年開かれているが、報告書をまとめたのは初めて。都は最終報告書を受け、今年度内に「エイズ対策推進計画」(仮称)を策定する。
(2008.12.25 毎日新聞)
 東京都のエイズ専門家会議は12月24日、事務局が示した最終報告案を大筋で了承した。都の取り組むべき課題として、エイズおよびHIV感染に対する社会的な理解の促進や、感染拡大の防止に向けた重点的な予防対策、陽性者への支援を挙げている。都はこの日出た委員らの意見を同案に反映させた上で、来年1月中に最終報告を公表する予定。
 同案によると、全国のHIV感染者、エイズ患者報告数の3分の1が東京都に集中している。国籍別・性別では、日本人男性が約9割で、感染経路別では、同性間性的接触が約7割を占める。また、年齢別では、HIV感染者の約9割を20-30歳代が占め、エイズについては40歳代以上で発症し、診断される割合が高い。
 同案は、入院から外来中心に移行し、陽性者が働き続けながら治療を受けられる環境づくりが重要であることや、陽性者の予後が長期化し、長期の服薬や高齢化によるさまざまな健康問題の顕在化が懸念され、療養支援の必要性が増していることなども指摘している。
 その上で、エイズ対策の課題として、▽幅広い年齢層に感染が見られる一方で、正確な知識や情報がいまだ十分行き届いていない▽同性愛者など、特にターゲットを絞って感染予防を促すべき層がある▽陽性者の予後が長期化するに伴い、診療体制や療養に関するさまざまな課題が生じている―などを指摘。都が今後、自ら取り組むべき対策としては、エイズおよびHIV感染に対する社会的な理解の促進、感染拡大の防止に向けた重点的な予防対策、陽性者への支援を挙げている。
(2008.12.24 医療介護CBニュース)
東京都福祉保健局のページで、東京都エイズ専門家会議による最終報告が公開されている。この報告では東京のエイズの現状や諸外国の動向が分析されていて、「資料編(6)」では先進諸国における人口100万人当たりの新規HIV感染者及びエイズ患者報告数も比較されている。
先進諸国における人口100万人当たりのHIV感染者及びエイズ患者報告数
先進諸国における人口100万人当たりのHIV感染者及びエイズ患者報告数
(東京都エイズ専門家会議「東京都におけるエイズの現状〜現在の課題と今後の方向性〜」)
西欧諸国の動向を比較したグラフを見てすぐわかるように、イギリスなどでは日本以上に新規HIV感染者が増えている。しかし、HIV感染報告数が増加している国でも新規エイズ患者報告数は激減しており、このグラフで新規エイズ患者が増加傾向なのは日本だけだ。イギリスの新規HIV感染者数が特に多いのは、先進国では珍しく新規HIV感染者の半数以上が女性で、異性間の性的接触によるHIV感染報告数が多いことが原因。オーストラリアやアメリカでも異性間HIV感染の割合は増えていて、これまでエイズ予防対策を薬物使用者や同性愛者など感染リスクの高い集団に限定しようとした結果、一般社会全体に予防知識が伝わらず、かえって感染リスクの高い集団にも正しい予防知識が届かなくなる傾向もあるように見える。

医療先進国では一般的に、20代でHIV感染しても治療を受け続ければ高齢になるまでエイズ発症しない。日本の新規エイズ患者報告数が増加しているのは、エイズ発症するまでHIV検査を受けない人がまだ多いからだ。これは多くの自治体で無料HIV検査予算が減っているため、保健所の検査日程が改善されずHIV検査率が上がらないことも原因だ。他の自治体より検査が受けやすい東京都でも新規HIV感染者報告数の約9割が40歳未満だが、無料HIV検査を受けた人の約8割が40歳未満なので、新規エイズ患者報告数は年代別の差がなく中高年も多い。つまり40歳以上ではエイズ発症してから初めて医療機関でHIV感染に気付く割合が高く、50歳以上のHIV感染者では半数以上がエイズ発症するまでHIV検査を受けてない。東京以外の地域では、エイズ発症するまでHIV検査を受けてない人の割合はさらに高い。これも欧米と同様、一般社会全体に正しいエイズ予防知識が伝わってないからだろう。
○ 東京のエイズの現状
・行政が実施する〔保健所などの無料HIV〕検査の受検者の約8割が30歳代までの比較的若い世代。発症した状態で感染が判明する〔割合が高い〕40歳代以上の受検が少ない。
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(2)感染拡大の防止
・若い世代、40歳代以上の世代、同性愛者等、感染予防に向けた行動の支援を必要としている層に対し、対象者それぞれの人権や社会的背景に配慮しながら、対象層の行動特性に合わせた発想や手法を用いた予防啓発の実施を検討すべきである。
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・同性愛者や外国人等に対しては、コミュニティへの介入など、地域に根ざした普及啓発とともに、コミュニティに繋がりを持たない対象に対してもメディアを通じた情報発信に取り組むことなどを検討すべきである。
(東京都福祉保健局 東京都エイズ専門家会議「最終報告」について)
〔エイズ発症するまでHIV検査を受けてない〕エイズ患者として報告される割合は、全国の約3割に対し、長野県では約6割と高い。
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HIV感染者(キャリア)は20代に多いが、〔長野県の〕エイズ患者は40〜50代に多い。
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全国は「同性間〔の性的接触によるHIV感染〕」の割合が高いが、長野県では圧倒的に「異性間」が高くなっている。
(長野県衛生部 長野県のHIV/エイズの現状と特徴)
 厚生労働省のエイズ対策を研究するチーム(主任研究員、東優子・大阪府立大学准教授)は、『日本の性娯楽施設・産業に係わる人々への支援・予防対策の開発に関する学際的研究』をまとめた。
 それによると、年齢が上がると、コンドームの使用率が減少する傾向があることがわかった。
(2007.05 渋井哲也 OhmyNews)
東京都はこの報告をふまえて「エイズ対策推進プラン」(仮称)を今年度中に公開するらしい。エイズ対策に限らず、いわゆる「専門家会議」の報告を東京都が重視しているのかは疑問だが、日本の新規HIV感染者・エイズ患者報告数の約3分の1が東京で報告されているので、東京都が従来より有効なエイズ予防対策を意識して無料HIV検査予算を拡大することに期待したい。
 築地市場(東京都中央区)の移転先の豊洲地区(江東区)の土地から、公表値の約115倍の濃度の発がん性化学物質「ベンゾ(a)ピレン」が検出されたとする調査書を東京都が6月に受理していたにもかかわらず、汚染対策について議論する公開の専門会議の最終会合(7月開催)でその結果を報告しなかったことが26日、分かった。都は「報告事項に該当しない」として、10月末まで調査書の結果を把握する作業を放置したため、同会合で公表できなかったと説明している。
(2009.01.26 産経新聞)

・関連
→ 都市周辺県で「いきなりエイズ」が多い理由
→ 高齢者の性感染症

2008.11.27 Thursday

デタラメなエイズ噂話をネタにした週刊誌の記事

「家のない少女たち」という著書がある自称「アングラ記者」の鈴木大介が、SPA!や週刊朝日などでエイズ関連のデタラメな噂話をネタに「意図的に感染拡大させているHIV感染者がいる」という内容の記事を書いていた。ネットではよく見かけるエイズ偏見ネタだが、なぜ複数の週刊誌でこんな稚拙な記事が掲載されたのだろうか。
「出会い系で、HIV感染者が意図的に感染させようと遊びまわっている」。そんな噂を聞きつけ取材を開始した。
(2008.04 鈴木大介 SPA!)
実は最近、インターネット上の風俗嬢法掲示板等で、HIV感染者の裏風俗嬢や援交(援助交際)女がいるという都市伝説めいた噂が増えている。取材した結果、事実であると確信した。
(2008.10 鈴木大介 週刊朝日)
鈴木が書いたこれらの記事は、大半がHIV感染者や性病患者に対する偏見から流通している噂話を並べただけだ。取材対象は思い込みの強い人物ばかりで証言の信憑性も低い。
SPAの記事に出てくる自称HIV感染者の男性は、被害妄想が強く言動が支離滅裂で「以前からうつ気味で精神科の通院歴が長い」ということから、おそらく自分がHIV感染者だと思い込んでいるだけの典型的なエイズノイローゼだろう。誇大妄想による攻撃的な言動があっても本当に実行しているとは限らない。
 エイズノイローゼはいろいろなものがある。自分がエイズにかかったとか、自分の配偶者がエイズで一緒に生活できないとか訴えは多い。ノイローゼと言う概念からすれば、強迫神経症、不安神経症、恐怖症、精神分裂症によるエイズ妄想などのものが多くみられる。
(1993 厚生労働省 エイズ相談マニュアル エイズノイローゼの人への対処)
週刊朝日の記事は、18歳で家出した少女が売春で稼いで全額自費・無保険でHIV治療を受けているという意味不明な作り話が中心。同居してる家族にHIV感染を打ち明けるタイミングが難しいという話ならわかるが、家族と別居して寮に住む少女が自立支援医療制度の申請を避けるという話はつじつまがあわない。未成年でも自分で住民票を異動し世帯主として国民健康保険に加入できて高額療養費の還付も受けられるはずだ。
そもそも10代日本人女性の新規HIV感染者やエイズ患者は近年ほとんどいない。この少女も、ネットの噂話を寄せ集めたようなケータイ小説的悲劇の主人公になりきっているだけで、実際にはHIV感染してないのだろう。
 特段の事情がなければ、普通に意思能力のある18歳の学生が、現在自分の生活の本拠のある住所に自らの意思で異動届出をすることは、有効と考えられる。
(2008.06 福井県 未成年者の住民票異動手続き)
SPAと週刊朝日の記事で共通して出てくる、風俗店の面接時に簡易HIV検査で陽性だった18歳と19歳の少女が後日別の店で働いてたというネタもおかしい。HIV検査は1回で確定することはなく、陽性が疑われる場合には確認検査が必要だ。現在のHIV一次検査の精度では、もし誰も感染者がいない環境でも、300人に1人から、HIV感染してないのに陽性が疑われる「偽陽性」反応が検出される。妊婦などは偽陽性率が高いとされているため、妊婦健診のHIV一次検査で陽性が疑われる場合にも受検者が混乱しない説明をするように、厚生労働省からマニュアルが配布されている。ちなみに平成18年の国内妊婦のHIV感染率は14,362人に1人。つまり一般的に女性がHIV一次検査で陽性が疑われる場合、HIV感染よりも妊娠など他の要因がある可能性が高い。
1000人の妊婦さんにHIV一次検査を実施すると3人の割合(0.3%)で、実際には感染していないのに「陽性」となってしまうことがわかっています。
(妊婦HIVスクリーニング検査(一次検査)で結果が陽性だった方へ)
現在のところ、〔妊婦は〕一次検査で〔HIV〕陽性が20名出た場合、真の陽性(二次検査で陽性)はその内1名程度という報告があります。
(妊婦HIV 一次検査実施マニュアル)
平成11年以降毎年報告されるHIV感染妊婦の半数近くは日本国籍である。
(平成19年度 HIV母子感染予防対策マニュアル)
厚生労働省エイズ動向委員会のエイズ発生動向年報によると、国内で新たに報告された女性HIV感染者が例年より多かった平成18年の日本人女性HIV感染者は49人、日本人女性エイズ患者は20人だった。
日本人女性HIV感染者を年齢別に見ると、10代は0人、20代は12人、30代は21人、40代は6人、50代は7人、60歳以上が2人。日本人女性エイズ患者を年齢別に見ると、10代と20代は0人、30代は11人、40代は3人、50代は5人、60歳以上が1人。
平成18年に妊婦健診で報告された日本人HIV感染者は23人。つまり20代・30代の日本人女性の新規HIV感染者は大半が出産を前提とした妊婦健診で報告されているはずだ。
人権と感染抑止の狭間で、果たしてこの事態に解決の道は開かれるのだろうか。
(2008.04 鈴木大介 SPA!)
人権と感染抑止の狭間で、今一度HIVについての論議が求められる時期に来ているように思えてならない。
(2008.10 鈴木大介 週刊朝日)
SPA!と週刊朝日のエイズ噂話記事の結論は、なぜか現実のHIV感染者の人権を否定する方向に誘導されており、鈴木はまるで「不道徳なHIV感染者がわざと感染を拡大している」という宗教的偏見を広めるため偽善的に記事を構成しているように見える。それとも鈴木は宗教臭い噂話に誘導されて無自覚にこんな文章を書いてしまったのだろうか。
性的接触が多ければ性病に感染するリスクが高いのは当然だが、もし過去に少女援交などに関わっていたHIV感染女性が実在するとしても、日本のHIV感染者全体から見れば影響はごくわずかだ。エイズ発生動向年報などを見ても、もっと幅広い年代の一般的な男女の性行動からHIV感染が広まっているのは確実で、国内日本人女性のHIV感染を少女援交のような特殊な事例だけで語るのはまちがいだ。
以前の週刊朝日にはエイズ専門医や現実のHIV感染者を取材したまともな記事も掲載されていたのだが。
〔国立国際医療センター戸山病院・ACC専門外来医長の〕本田医師はこう話す。
「同性愛者や風俗に勤めるセックスワーカーなど、『特別な人が感染する病気』だと思っている人が多い。しかし現実には、サラリーマンや主婦など一般の人に〔HIV〕感染が拡大しています」
(2008.07 熊谷わこ 週刊朝日)

・関連
→ 抗HIV治療に関するよくある誤解
→ HIV感染者への偏見を広める夜回り先生の被害妄想
→ 妊婦のHIV感染が増加
→ 高齢者の性感染症

2008.10.18 Saturday

妊婦のHIV感染が増加

エイズ予防情報ネット「HIV母子感染予防対策マニュアル(平成19年度)」が公開された。母子感染を防ぐために行われている妊婦HIV検査は普及し、平成19年度の全国の妊婦HIV検査の実施率は97.2%になった。妊娠するまでHIV検査をしたことがない女性が多いので、日本で報告される新規HIV感染女性の半数以上が妊婦だ。平成18年のHIV感染妊婦は47例で例年より多く、妊婦のHIV感染率は14,362人に1人。エイズ発生動向年報によれば平成18年は、妊婦以外を含めた女性HIV感染者の総数も例年より多く89例だった。HIV感染妊婦からの出産例も増えたが母子感染はなかった。母子感染予防を行ったHIV感染妊婦からの母子感染率は累計でも0.5%で、日本では出産までに検査すればHIV母子感染は予防できるという。
 HIV感染妊婦数の妊娠転帰別・年次別変動については、平成9年以降毎年30例前後が報告されてきたが、平成18年は47例と非常に多くの報告があった。
(HIV母子感染予防対策マニュアル 平成19年度)

妊婦HIV検査の実施率は都道府県別の数値も示されている。平成18年度は全国では93.5%の妊婦が検査を受けているが都道府県別では、宮崎県は60.9%、長崎県は65.0%、青森県は69.5%とまだ地域格差が大きい。妊婦HIV検査の実施率が低い県は毎年同じで、しかも青森のように保健所での一般向け無料HIV検査実施率が全国平均の半分程度しかない県も含まれていて、エイズへの関心の低さが悪循環につながっているようだ。

平成18年度の妊婦HIV検査の実施率は、ベッド数が20以上の「病院」と、ベッド数が20未満の「診療所(医院・クリニック)」を分けた数値も示されている。全国で見ると、病院のHIV検査率は95.3%、診療所は90.9%とあまり大きな差はない。たとえば宮崎県は病院のHIV検査率が全国で最も低く56.4%だが、診療所は63.9%で診療所のほうがHIV検査率がやや高くなっている。しかし高知県だけは病院と診療所のHIV検査率の差が大きく、病院では95.5%なのに、診療所は26.6%と極端に低い。
 また、年間の出産取扱件数が少ない施設は〔妊婦HIV検査の〕実施率が低い傾向が明らかになり、年間出産数が100件未満の病院の7.9%が検査をしていなかった。一方、産科医1人当たりが取り扱う出産件数と検査率の関係を調べたところ相関は低く、実施率が低いのは医師不足が原因とは言えないことが分かった。
(2007.11.4 産経新聞)

妊婦健診で報告される女性HIV感染者や、中高年のHIV感染者が増えていることからもわかるように、結婚相手と普通のセックスをしているだけの人にもHIV感染は拡大している。ネットでよくある「HIV感染増加はアナルセックスだけが原因」という迷信はデタラメだ。

・関連
→ 日本の新規HIV感染者、女性の半数は妊婦
→ 沖縄県が妊婦健診HIV抗体検査の公費補助を減額
→ 高齢者の性感染症

2008.08.30 Saturday

HIV感染予防についてよくある誤解

HIV感染予防について間違った知識が書かれているのは宗教系サイトが多いのですが、元ネタが宗教的な偏見から生まれた迷信だと気付かずに都市伝説を広めている人もいるようなので、よくある誤解が解消できるような説明をまとめておきます。HIVについてよくわからない人はエイズ予防情報ネットの「エイズQ&A」や各保健所の資料も参考にしてください。

「HIVはコンドームを通り抜ける」という噂は、アメリカの反避妊団体「AMERICAN LIFE LEAGUE」が広めたガセネタが元になっています。キリスト教原理主義者は避妊用品の販売・配布を妨害するためにコンドーム否定論を広めているのです。
〔AMERICAN LIFE LEAGUEは〕「コンドームが性病予防としても不完全だから禁止」と訴え、「ニュージャージー州バーリントン郡のエイズ・カウンセリング・センターでのコンドームの配布を中止させたという成果をあげた」という例も書かれていた
(反コンドーム派の論理)
エイズウイルスがコンドーム素材を通過するほど小さくないことは顕微鏡写真を見比べてもわかります。日本国内では医療機器として承認されたコンドームだけが販売されており、コンドーム製造工場では電気試験による全数ピンホール検査を行っているので、小さな穴が開いたコンドームが出荷されることもありません。
リンパ球から出芽するエイズウイルス
リンパ球から出芽するエイズウイルス
(広島県感染症情報センター 病原微生物電子顕微鏡写真集)
〔ポリウレタン製コンドーム〕サガミオリジナルの表面(5000倍)
サガミオリジナルの表面(5000倍)
(サガミオリジナル002 相模ゴム工業株式会社)
性行為による〔HIV〕感染はコンドームを正しく使用することにより予防できます。
(鹿児島県:エイズの予防について)

「日本のHIV検査率が0.1%」というのは、保健所などで自発的に無料HIV検査を受けた人数が1年間で人口の約0.1%という意味で、実際には病院や妊婦健診でHIV検査を受ける人のほうがはるかに多いです。地域によってはエイズ対策予算が以前の半分以下に減らされており、保健所の無料HIV検査を平日月1回程度しか行ってないところもあるので、HIV検査率を上げるためには各都道府県のエイズ対策予算を以前の水準に引き上げることも必要です。早期発見のため自発的にHIV検査を普及するべきという観点で、TV番組などではHIV検査率の数字だけを示すことが多いですが、誤解されやすいので説明を加えてほしいところです。
保健所等におけるHIV抗体検査件数
平成19年 年間 〔全国〕計 128,819〔件〕
(厚生労働省エイズ動向委員会 平成19年エイズ発生動向年報)
 エイズウイルス(HIV)の母子感染予防に重要な妊婦のHIV検査の実施率は昨年度、全国の病院で平均95・3%で、前年度より0・6ポイント上昇したが、検査率には最大で2倍近くの地域格差がある
(2007.11.4 産経新聞)

HIV感染者数について「若者を中心にHIV感染が広がっている」と報道されることが多いですが、エイズ患者数のほうは若い世代も中高年も大差ありません。若い世代のほうが性感染症が多いのは当然ですが、エイズは潜伏期間が長いため、あまりHIV検査を受けない中高年世代では夫婦間でもHIV感染が広がる例も多く、高齢になってからいきなりエイズ発症するまでHIV感染に気付きにくいようです。
異性間性行為感染によるもの
2007年の日本人エイズ患者・HIV感染者数
〔HIVの性行為感染経路が〕異性間では若い世代に感染者が多く、中高年世代にエイズ患者が多くみられます。全体でもすべての年齢層にわたっています。
(2008 Yahoo! JAPAN レッドリボンキャンペーン)
初診時に50歳以上だった女性のHIV感染症例を調べたところ、14例中8例(57%)もが、夫やパートナーの感染・発症をきっかけに感染が発覚していることが分かった。
(2005.12 日経メディカル オンライン)

「HIVは遺伝する」というのは誤解です。もし父親がHIV感染者でも、母親に感染していない場合は子供に感染する可能性はありません。HIVの母子感染は出産時に感染者の血液を浴びてしまうことが主な原因なので、HIV感染妊婦がまったく検査や治療を受けずに通常出産した場合でも母子感染の可能性は30%程度ですが、抗HIV治療や帝王切開など予防対策を万全にすれば母子感染の可能性を1%以下にできます。つまりHIV母子感染対策には妊婦HIV検査が最も重要なのです。日本では妊婦健診で95%以上の妊婦にHIV検査を行い、毎年30人程度のHIV感染妊婦が報告されていますが、万全の予防対策で出産すれば母子感染しない実績が10年以上守られています。
もし〔HIV〕陽性が確定しても、専門的治療により妊娠を継続し出産が可能、胎児の感染も防げます。
(エイズ予防情報ネット 妊婦HIV一次検査実施マニュアル)

「エイズウイルスの起源は生物兵器」「サルとセックスした黒人が最初にエイズに感染した」などの迷信は「エイズは天罰(だから神を信じる者はコンドームを使う必要はない)」というキリスト教伝道師の妄言と同じで「自分には関係ない」という偏見から広まったものでしょう。研究によると、チンパンジーを殺して肉をさばいて食べた人が原型のウイルスに感染したのがHIVの起源とされています。
シャープ教授の研究結果によると、HIV-1は1930年ごろにアフリカ中西部のチンパンジーの感染したSIVが起源だという。
(2003.06.19 WIRED NEWS)
アフリカなどのHIV感染率が極端に高い地域では他の性感染症も多いのでHIV感染が起こりやすく、医療が遅れているため注射針の使い回しなどがHIV感染拡大を招いたとも言われています。現地調査によれば出稼ぎ鉱山労働者以外ではアフリカの性行動は欧米とあまり変わらず、アフリカ人は信心深いので獣姦や同性愛の習慣もないそうです。しかし地域によってはクリトリス切除や一夫多妻など女性差別的な習慣があることが、キリスト教団体から偏見を持たれる原因になっているのでしょう。
調査団は、HIVは異性間のセックスよりも感染した注射針の使用やHIVの混入した輸血の方が感染しやすい、と議論している。また調査でも、アフリカの性行動は、北米やヨーロッパなど、感染が明らかに低い地域とほとんど同じだとしている。
また調査では、母親が感染していないにも関わらず、HIV感染している赤ん坊がいることを確認し、こういったケースについては医療現場での感染を要因として疑っている。
「アフリカでは、複数の人に消毒なしに同じ注射針を使用する行為が、毎年数百万単位で行われています」とGisselquistは言う。
(2003 AJF ロイター通信 International Journal of STD & AIDS)
 タンザニアの12集落で、STDの治療や医療関係者による研修が行われた6集落と、それ以外の6集落とを比較したところ、両群で性行動、コンドームの使用では差がなかったにも拘わらず、前者ではHIVの新規感染発生率が平均38%も低かった。
(1999.03 エイズニューズレター)
いまだに時代遅れのエイズウイルス生物兵器説を信じる人たちは、世界のHIV感染や治療の現状には興味がなく、基本的な知識も不足しているようです。アメリカ政府の責任を追及するなら、アメリカ政府が宗教的な理由からコンドーム配布を嫌ってアフリカのHIV予防政策を妨害していることなど、もっと現実的な問題を扱ってほしいものです。
 ナミビアの例では、政府が若者にコンドームの使用を奨励したため、米国のPEPFARからの支援が減らされたり、中止になったりした。ナミビア政府は米国から「コンドームはハイ・リスク・グループのもに使用が許されるべき」だと言われた。それは、兵士、トラック運転手、セックス労働者、麻薬中毒者のことをを指す。多分、この規定は米国独特のもので、人口の22.5%もエイズが蔓延しているナミビアでは、すべての人がハイ・リスクになっている。
 また、米国はPEPFAR援助の条件として、中絶をレイプ、近親相姦、生命に危険のある病気の時の妊娠に限るとしている。ケニアやガーナではすでにこの米国の条件のために、多くの診療所が閉鎖された。
 PEPFARの2005年度予算では、コンドームを使用しないプログラムに、1億8,000万ドルを拠出する計画である。米国内でも、PEPFAR資金を得ることが出来る組織は、特定の宗教団体に限られる。
(2004.08.23 国際問題評論家・北沢洋子)

・関連
→ 沖縄県が妊婦健診HIV抗体検査の公費補助を減額
→ アメリカの援助はアフリカのエイズ感染リスクを拡大している
→ 宗教右翼を煽動したジェリー・ファウエルの残した妄言
→ 高齢者の性感染症

2008.08.23 Saturday

抗HIV治療に関するよくある誤解

抗HIV治療について、子供が怖がるような説明をしたほうがいいと思い込んでいる記述をネットの掲示板などでよく目にしますが、そういう噂の影響で誤解が広がりHIVや性病の検査を怖がる人もいるようなので、よくある誤解を解消できるような説明をまとめておきます。

「治療を受けても短命」というのは昔の話で、いま先進国では、25歳でHIV感染がわかっても治療を受ければ余命は平均40年といわれています。つまり治療を受ければ普通の人の寿命と大差なく、高齢になるまでエイズを発症せずに普通の生活を送ることができます。
 最近は、治療効果も高まり、治療を受けながら何十年も普通の生活を送り、健康な人の平均余命近くまで生きることも可能になっています。ただし、エイズを発症すると、治療が難しく、重い感染症で命にかかわることもあります。早期にHIV感染を発見し、適切な時期に治療を開始することが重要です。
25歳HIV感染者の平均余命
25歳HIV感染者の平均余命(*デンマークでの調査)
(2008.07 NHK「きょうの健康」 国立国際医療センター 岡 慎一)

「治療費が高額で支払えない」というのは嘘で、日本では自立支援医療制度によってHIV感染者の治療費自己負担額は所得に応じて上限が決められています。平均的な所得の人は月額1万円以下、超高所得者でも月額2万円、年収80万円以下なら月額2500円、所得がなく生活保護を受けている場合は自己負担ゼロになります。
自立支援医療の自己負担の概要
自立支援医療の自己負担の概要
(2007 厚生労働省:税制改正に伴う自立支援医療制度の対応について)

「通院治療が大変」というのは誤解で、ほとんどが月1回以下の通院ですむそうです。
抗HIV薬の進歩により治療の中心は外来になっています。CD4数が500/μl以上では半年から1年に1回程度の通院。CD4数が350〜500/μlでは3ヶ月〜半年に1回程度の通院。CD4数が200〜350/μlでは1ヶ月から3ヶ月に1回程度の通院。CD4数が200/μl未満では1ヶ月に1回程度の通院が目安になります。
治療を開始した患者も、治療開始後の3〜6ヶ月で状態は安定します。その後は1〜3ヶ月の間隔での外来通院となります。
(国立国際医療センター 戸山病院 エイズ治療・研究開発センター)

「1日5回大量の薬を飲む」というのは昔の治療法で、いまでは1日1回数錠を服用するだけに改善されています。
薬の研究は進歩し、種類も服用回数も少なくて済むようになった。現在は1日1回4錠を服用する療法が一般的だが、今年秋には2錠で済む薬が発売される。
(2008.07 週刊朝日)

「治療してもウイルスは減らない」というのは誤解で、投薬治療でウイルス量をゼロに近い状態まで減らすこともできます。しかしウイルスが潜伏した状態の細胞はなくならず、投薬をやめるとウイルスはすぐにまた増えてしまうので、薬を飲み続ける必要があるのです。
 抗HIV治療を中断するとウイルスはすぐ治療以前の状態に戻って増えます。なぜなら、Tリンパ球の中にごくまれに、ウイルスが核の中に感染しているのに、「まったくウイルスを作らない潜伏した状態の細胞」ができるからです。
(2004.01 教育家庭新聞)

数年前からネットでよくコピペされる「エイズを発症した風俗嬢の画像」はニセモノです。感染症発生動向調査では、日本国籍エイズ患者の男女別・年齢群別の指標疾患発症数が発表されていますが、ネタにされている画像のような全身にわかりやすい症状の疾患がある日本人女性エイズ患者は実在しません。いわゆるケータイ小説のような悲惨な主人公になりきってる自称HIV感染者のブログは大半がニセモノで、抗HIV治療についていいかげんな記述が多いので気をつけてください。
日本国籍AIDS患者の男女別・年齢群別指標疾患発症数
日本国籍AIDS患者の指標疾患発症数
(2008.06 病原微生物検出情報月報)

・関連
→ 日本の新規HIV感染者、女性の半数は妊婦
→ HIV感染者への偏見を広める夜回り先生の被害妄想

2008.08.19 Tuesday

川田龍平後援会の分裂騒動

川田龍平後援会の分裂騒動が週刊誌などで話題になっている。騒動の中心になっている元事務局長や川田龍平の母・川田悦子の雑誌コメントが利己的すぎて真相がよくわからないのだが「東京アウトローズWEB速報版」で公開されている後援会側のビラと、週刊朝日の記事で川田龍平が答えたコメントを見比べた印象では、分裂して良かったようにも見える。
「川田龍平を応援する会」(東京都新宿区)の元事務局長ら11人が8月8日、都内で説明会を開催。関係者によると、100人を超える会員が集まったが、「川田の“市民派議員”としての変質を批判する、さながら“川田弾劾集会”の様相になった」という。
(2008.08.12 東京アウトローズWEB速報版)
──後援会の事務局が不信感を持っています。
〔川田龍平:〕自分が議員としてやっていきたいことと、一部の人たちがやりたいことの方向性の違いだと思います。
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──今度どうされますか。
〔川田龍平:〕後援会の皆様に説明するため、9月にも総会を開きたいと思っています。
(2008.08 週刊朝日)

川田龍平が政治団体「みどりのテーブル」から離脱したり、川田悦子や後援会の意見を聞かなくなった理由が、具体的にどういう方向性の違いだったのかはよくわからない。しかし最近の川田龍平が議員として目立った行動といえば、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」(青少年ネット規制法案)に反対票を投じたことだ。青少年ネット規制法案は自民、公明、民主、共産が合意社民党も最終的には賛成したので、参議院で反対票を投じたのは川田龍平だけだった。
携帯電話については、すでに今年2月に大手4社が有害情報の閲覧を制限する「フィルタリング」を導入し自主規制を行っています。また、有害情報を発信しているサイトの多くは海外に拠点があり、日本の法律は適用されません。この法律が作られても現状の改善効果は期待できません。一方で、フィルタリング機能向上に取り組む機関の国への登録制が残され、憲法21条で保障された「表現の自由」への国による介入の懸念を払拭できていません。フィルタリングへの依存ではなく、メディアリテラシー(メディアを批判的に読みとく力)を高めるべきです。充分な審議もなく拙速に問題ある法律をつくるのではなく、社会として自主的な規制力を育てることに力を注ぐべきだと考えます。
(2008.06.11 参議院議員 川田龍平ホームページ)

青少年ネット規制法案は自民党原案よりだいぶ改善されたものの、フィルタリング運用については多くの問題点があり、18歳未満の青少年がネットで政府に不都合な情報などを検索できなくなる可能性も指摘されている。
 そもそも犯罪性のある情報やわいせつ物に関しては、刑法だけで十分に違法である。わざわざ新法で規制する必要はないのだ。
(2008.08 論座 佐々木俊尚)

高校生のとき薬害エイズ訴訟の原告になった川田龍平が、青少年の知る権利や表現の自由を求めるのは当然だ。もし後援会や川田悦子から「青少年ネット規制法案に反対するな」と言われたとしても、川田龍平にとっては自分の人生を否定することになるので、言いなりにはならないだろう。
編集部 「自分には関係ない」と思っていた裁判を「やりたい」という気持ちになったのには、何か関心を持ち始めるきっかけのようなものがあったのでしょうか?
川田 一つは、高校生になってから、ジャーナリストの広河隆一さんが薬害エイズや裁判について取材した『日本のエイズ』という本を読んだことです。その中で、自分がなぜHIVに感染したのかということを具体的に知っていくと、やっぱり悔しい、許せないという気持ちになってきた。
(2006.03 マガジン9条)

川田悦子と後援会側は、川田龍平が妻の堤未果とアメリカ視察に行った件についても不満があるようだが、以前からアメリカ取材を行ってきたジャーナリストの堤未果に案内してもらうのは不自然ではない。アメリカの法律ではHIV感染者の入国は禁止されているので、観光目的で安易に旅行するとは考えにくく、入国トラブルがあった場合にも対応できるような人物が同行する必要もあったのだろう。
 感染拡大防止の観点から、入国査証の申請時に、HIVに感染していないことの証明を求めるなど、外国人HIV感染者の入国を制限している国がある。日本はこうした制限を設けていないが、その数は米国、韓国、ロシアなど12カ国に上るという。また、これ以外にも感染者の旅行を何らかの形で制限している国が70カ国以上あるとされる。
(2008.07.06 共同通信)

週刊朝日の記事には「リベラル派の龍平さんが8月6日、9日の原爆の日に日本にいないとはショックでした」という後援会関係者のコメントも載っているが、8月3日から8日までメキシコで国際エイズ会議が行われていたことは書いてない。

川田龍平の選挙応援をした、川田悦子の友人だという環境活動家が、エイズ患者をネタにしたインチキ民間療法を以前から自分のメルマガやブログで「民間療法でエイズが治った」などと宣伝していたという事例もあった(日和見感染症の表面的な症状軽減をうたう民間療法にはエイズウイルス自体を除去する効果はない)。支援してくれる人すべてが川田龍平の理解者とは限らないので、主導権争いをするような後援会は入れ替えていいだろう。しかし悪いところを批判してくれる身内や支持者まで離れていかないように気をつけてほしい。
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