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2010.03.28 Sunday

条例改正案を読まずに過剰規制を容認するのは危険

 いまネット以外でも新聞やラジオなど各方面で話題になっている「東京都青少年の健全な育成に関する条例」改正案は、これまで青少年条例に含まれていた図書販売規制に「(漫画など想像上の)非実在青少年を性的に描写した図書の販売・閲覧規制および不健全図書指定」「(実写の)児童ポルノ単純所持禁止」「18歳未満の都民への携帯フィルタリング強制化と、フィルタリング内容への東京都の介入」などを加えるもので、ほとんどの条文に問題があります。
 さまざまな人が改正案への反対意見を都議に届けてくれたおかげでいったん成立は見送られ継続審議になりました。しかし、6月の定例議会でにまた審議されるので、廃案になるかどうかはまだわかりません。一部を修正した程度で可決されてしまう可能性もあります。
 改正案の具体的な条文は東京都議会図書館では公開されていますが、東京都の公式サイト上ではいまだに公開されていないので、一般の方が複写したものを公開してくれています。これまでの東京都青少年条例との差分は、ブログ「弁護士山口貴士大いに語る」などで整理されています。また、都民のパブリックコメントを無視した今回の改正騒動の概要は、GIGAZINEのまとめ記事「東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト」などで詳しく説明されています。
 条例改正案を作成した東京都青少年・治安対策本部は、出版業界団体や有名漫画家や大学やPTAなどさまざまな団体から寄せられた今回の条例改正案への反対意見に反論する見解を、議会での決議前日の3月18日に東京都の公式サイトに発表しました。これは東京都青少年・治安対策本部が、規制基準があいまいな条文自体を修正する意志がないこと、成立するまで改正案そのものを東京都の公式サイトには公開する意志がなかったことを示しています。

 このような条例改正案が話題になると、いまだに「子供の手の届くところにエロがあるのはおかしい」「ゾーニングを徹底するべきだ」という発想で過剰規制を容認してしまう人も多いようですが、東京都青少年条例ではすでに2001年からエロ本の区分陳列が義務づけられているうえに、2004年からはヌードグラビア等を含む雑誌は中が見えないようにシールで止めた状態で出荷されています。つまりエロ本の陳列方法はすでに酒やタバコと同等の扱いになっているので「店頭で子供が間違って買ってしまう」という言説には根拠がありません。
 この青少年条例によって東京都は1964年から毎月数冊の「不健全図書」を指定しています。他県の青少年条例が「有害図書」を指定するのと似ていますが、東京都から不健全図書に指定された図書はほとんど日本全国で流通・販売が自粛されてしまい、雑誌では指定された号だけでなく後にまで影響が及ぶため、東京都の不健全指定は青少年への販売規制ではなく事実上の販売禁止に近い効果があることが以前から問題視されています。もともと成人指定マーク付きで販売されている図書やアダルトビデオを、東京都がさらに不健全図書に指定した事例も多く、東京都は意図的に販売自粛を求めているとも考えられます。
 性的な内容以外では、2001年から東京都青少年条例の不健全図書の指定基準に「著しく自殺若しくは犯罪を誘発するもの」という不明確な語句が加えられています。この不明確な条文が加わったことで、一般的な犯罪報道とあまり変わらない内容の本でも、東京都は安易に不健全図書に指定するようになっていきました。

 さて、2010年の条例改正案騒動のなかで最も話題になったのが、目的が不明確な「非実在青少年」規制の部分ですが、これまでの東京都青少年条例で想像上の人物を描いた漫画が規制されてなかったわけではなく、少女漫画・BL雑誌なども不健全図書に数多く指定されていました。
 東京都青少年・治安対策本部はこの改正案について、未成年に対する性暴力が直接的に描かれた過激な図書だけが不健全指定されるかのように説明しています。しかしそんな過激な図書は現在の青少年条例の枠内で不健全指定できるので条例を改正する必要はありません。では東京都青少年・治安対策本部はなぜ新たに「非実在青少年」を条文に含めようとしているのでしょうか。
〔2009年11月19日の東京都青少年問題協議会の〕拡大専門部会の終了後、青少年課長による記者レクが行われた。その際、問題視している出版物の例として、十数点が提示された。ジュニアアイドル誌は、『Namiのキモチ 浅岡なみセカンド写真集』『虹のしずく 真野しずくセカンド写真集』(いずれも心交社発売)、ゲームソフトは『幼辱〜天使たちの檻〜』(WestVision)、「児童を性の対象にするマンガ」は、『背徳恋愛6』『危険恋愛H45』『レイプvol.1』(以上、松文館)、『奥サマは小学生』(秋田書店)、『碧の季節』『08美少女同人誌徹底攻略』(以上、モエールパブリッシング)、青少協用語の「ラブコミック」(一般にはティーンズラブ)は、『レンアイ至上主義』『僕は妹に恋をする』(いずれも小学館)だ。このうち、実際に条例上の「不健全」図書に指定されているのは『レイプ』のみになる。
(月刊『創』2010年1月号 青少年条例と児童ポルノ法改定による表現規制を考える)
 11月に東京都青少年・治安対策本部が不健全指定すべき例として提示した出版物は、性行為を描いていない漫画や、画面に下半身や裸を描いていない漫画や、性的行為を撮影していないアイドル写真集などを含んでいます。このように性行為を画面に描いていない漫画を不健全図書に指定すべき例としながら、石原慎太郎の「完全な遊戯」のような少女を強姦する場面を文章で描写した小説は不健全指定しないという判断は、公正といえるのでしょうか。
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【追記】現行の条例でこれらの図書が不健全指定できないわけではなく、理由をこじつければ東京都青少年・治安対策本部はどんな図書でも不健全指定できます。しかし、一般的な図書と比べて過激な表現でないものを指定すると、聴き取り調査や審議会でも疑問点が指摘され議事録に残ります。だから東京都は過激でない図書を何冊も不健全指定する根拠を条文に含めたいのでしょう。
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【追記】東京都の意向だけでどんな書籍でも不健全図書にできるとは限らないらしいです。
mangaronsoh: 東京都では審議会にて諮問する図書は事前に「諮問図書に関する打合せ会」にて出版・書店・コンビニ団体の代表と協議される。これは出版・書店が多数で構成されている。 #hijitsuzai
mangaronsoh: 本年1月の打ち合わせ会においては反対多数で諮問予定のうち一冊は取り下げとなっている。詳しくは情報公開請求なりなんなりで資料を確認してくれ。 #hijitsuzai
mangaronsoh: つまり、「職員が選んできた「不健全図書候補」は、やっぱりほぼ100%の確率で不健全図書に指定される」とは限らない。そもそも、ここ最近は都の側も空気を読んで反対されそうなのは出さない。 #hijitsuzai
(2010.04.08 昼間たかしTwitter)
 また、東京都では審議会に諮る前に「諮問図書に関する打合わせ会」が開かれる。これは条例制定時の、自主規制の尊重など各種慎重論などを参考に、自主規制を行っている団体があるときは、それらの意見を聞かなければならない(第15条2)としているからで、その場の意見がかなり審議会に反映しているという。
 この会には、出倫協傘下の4団体(書店業は東京組合)から委員および事務局が参加し意見交換を行っている。他に、首都圏新聞即売委員会、東京都古書籍商業協同組合、東京都貸本組合連合会などの自主規制団体も参加(02年7月〜出版倫理懇話会、日本フランチャイズチェーン協会も加わる)。
(橋本健午 1998.01 日本出版学会編『布川角左衛門事典』日本エディタースクール出版部)
ところが、12月に行われた不健全図書指定の過程で、再びおかしなことが発覚した。
都が「出版業界団体との打合会」に提出した諮問候補リストのうちの1冊が、最終的に告示された不健全図書のリストから消えてしまったというのだ。一体なにが起きたのか。
問題の一冊は打合会の全委員に反対されたが、都はそのまま審議会に諮問した。しかし、審議会でも反対され、結局リストから外されたというのが真相のようである。
(2002.02 宝島社)
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 東京都青少年条例の条文では「青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」を不健全図書としていますが、3月18日の都議会総務委員会答弁で浅川東京都青少年・治安対策本部参事は「青少年の健全な成長を阻害する」という条文に科学的根拠がないことを認め、改正案に反対意見を寄せた有名漫画家の作品、永井豪「ハレンチ学園」や竹宮恵子「風と木の詩」については規制しない方針を示しました。しかし、11月に東京都青少年課長が不健全指定すべき例として提示した性行為を描いていない漫画と「ハレンチ学園」「風と木の詩」の表現には明確な差はありません。
 これでは、漫画でも実写でも未成年の表現が規制される基準がまったくわかりません。過去のテレビドラマや一般映画の名作とされる作品と比較しても判断できません。改正案の条文には明確な規定も科学的根拠もないので、東京都担当者や審議会の恣意的な判断だけで区分されることになってしまいます。
 ゲームのデザイナーやシナリオライターで作る「コンテンツ文化研究会」は、早くから条例改正問題に取り組んできた。杉野直也代表は非実在青少年の基準があいまいだとし、「年齢がない場合、背景や音声などから類推するのは無理がある。絵柄によっても左右される」と指摘する。「児童ポルノの規制はもちろん必要だ。だが、不明確な基準では、芸術などに大きな影響を与える」と話している。
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 作者だけでなく出版社からも疑問の声が上がっている。日本書籍出版協会と日本雑誌協会が15日に都議会最大会派の民主党に提出した意見書では「青少年と性をテーマとする作品では性描写は避けて通れない。いかに健全な表現であろうと恣意(しい)的に不健全と判断される恐れがある」と批判した。
 園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法、情報法)は非実在青少年規制に関し、「改正案は『みだりに』などの表現で規制対象を限定したというかもしれない。しかし、漫画のような創作物での芸術的な表現はそもそもデフォルメされるものだ。条文は具体的な禁止対象がはっきりせず、違憲性が問題になり得るほど過度にあいまいだ」と指摘する。単純所持規制については「現行の児童ポルノ禁止法の定義にあいまいな部分が残る以上、過度の規制になる。法の見直しが先決であり、それを飛ばして条例で規制することは本末転倒だ」と批判。その上で「出版社が集中する東京都の規制強化の影響は、他の道府県にすぐに及ぶ。慎重な論議が必要だ」と話した。
 これに対して都青少年課は「現行でも不健全図書指定の対象の8割から9割は漫画だ。性的感情を刺激しないが、強姦や獣姦、何人もの女性への乱暴行為を賛美するといった反社会的な行為は、現在の基準では指定が難しい。同性愛だからといってただちに反社会的となるわけではない」と説明。単純所持規制についても「罰則はなく、児童ポルノを根絶しようという社会機運を高めるためのあくまで理念規定だ。国に先んじたわけではない」と話している。
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 改正案に反対を訴えている山口貴士弁護士は、「改正案では何をもって単純所持というかの基準が不明確であり、しかも児童ポルノ禁止法にさえない単純所持を禁止することは、地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができるとする憲法94条に反する」としている。
(2010.03.18 毎日新聞)
 ネットでは、東京都青少年健全育成条例改正案に対し、さまざまな疑問が寄せられている。担当である東京都青少年・治安対策本部青少年課に聞いた。
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 ──判断は誰がするのか
 「『不健全図書』指定を行ってきた第3者機関『青少年健全育成審議会』で判断される。審議会は、議員、PTA、出版倫理協議会、警視庁、都などの委員で構成される」
 ──現在、一般に流通している作品も対象となるのではと懸念する漫画家の声があるが、実際はどのような作品が、どの程度、規制されるか
 「表現の激しさよりも、設定を重視する。通常のストーリーで必要な表現として描かれた性行為ではなく、強姦や近親者との性行為を肯定的に描くなど青少年の感性がゆがむような表現が規制対象となる。現在も月3〜4冊が『不健全図書』に指定されているが、極端に増えることはない」
 ──「非実在青少年」の作品に小説が含まれない理由は
 「文章による表現は受け手の能力を要するが、漫画やアニメは視覚的に年齢問わず、認識してしまう。小説に比べ、知識のない子供が影響を受けやすい」
(2010.03.18 産経新聞)
 東京都が指定する不健全図書の数が月3〜4冊というのは慣例で、条例で数が決まっているわけではありません。これは東京都担当者が審議会に持ち込む図書数がほぼ一定で、議論があっても結果として、審査された図書はほとんど全部が不健全図書に指定されているのが原因です。もし実際に東京都担当者が審議会に毎月数十冊以上の図書を持ち込んだ場合、審議会で一部しか不健全指定されなくなったり、流通・販売の自粛があまり実行されなくなる可能性があるから、上から検閲の要望があった図書を狙い撃ちで販売自粛させられるように担当者が慣例に従っているだけかもしれません。
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【追記】不健全指定に関連した裁判で東京都が示した見解によると「不健全図書類等の指定をするときには、審議会の意見を聴かなければならないと定めているものの、これに拘束されるとは定めていない」ということで、審議会は飾りらしいです。
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 未成年者の強姦や近親者との性行為などは世界的名作とされる手塚治虫作品でもたびたび描かれていますが、たとえば角川書店から再発された「火の鳥 望郷編」では出版社が人肉食や近親相姦などのエピソードをまるごと削除していて、他社の再発版とはストーリーが大幅に異なります。このような過剰な自主規制は必要とは思えません。
 前回の東京都青少年健全育成条例の「改定」は2004年のことでした。実は、2004年の条例改定後、青少年条例の担当部局が従来の生活文化局から、新設された青少年・治安対策本部に移管されています。青少年問題の取り組みが福祉的対応から取締りを基本にした治安問題として扱われるようになりました。そうです、不健全図書制度は、このときに、青少年への福祉的な配慮を前提とした制度から、「治安を乱すものへの取締まり」という観点から行われるようになったのです。青少年・治安対策本部および本部内の青少年課には、警察庁から出向した職員が存在します。彼らが、今回の「改正」案作成の原動力となっています。
(2010.03 弁護士山口貴士大いに語る)

 18歳未満向けの携帯フィルタリング機能は、すでに国の青少年ネット規制法で親が許可しなければ解除できない仕様になっていますが、今回の青少年条例改正案では、解除理由などの事項を記載した書面を親が携帯電話会社に提出しなければ解除できないようにする条文があり、東京都は携帯電話会社のフィルタリング内容や利用状況などについて調査や勧告ができることになっています。
 各携帯電話会社のフィルタリング機能は、利用者の成長段階に応じて保護者が段階的に選択できるようになっています。しかし東京都は18歳未満の利用者に対して一律にフィルタリング設定を解除させないことを想定しているようです。現実には携帯フィルタリング設定の対象はエロサイトだけでないので、成長段階に応じて解除しなければ学校の授業に関連した内容も閲覧できない場合もあり、青少年が学習機会を奪われることになります。
 そもそもこの青少年条例改正案で示されている、18歳未満の青少年を不健全なものから遮断すれば青少年が健全に育成できるという考え方は正しくありません。現代社会の中で育つ青少年は、段階的にリテラシーを学んでいくほうが現実的です。成人するまで不健全なものから遮断して育てられた人間の中にも非人道的な性犯罪者が多いことは、世界各地で大規模なカトリック聖職者による児童への性的虐待が問題になっていることからもわかるでしょう。
 今回の青少年条例改正案には、児童ポルノ単純所持規制に言及した条文もあります。これは現行の児童ポルノ法で販売・配布が禁止されている18歳未満の性的な画像に関する規制で、非実在青少年の規制とは異なります。
 しかし現行の児童ポルノ法では、自分の子供の記念写真や芸術作品などを除外する規定はないので、単純所持禁止を児童ポルノ法と切り離して青少年条例で定めてしまうと、規制の目的が不明確になり冤罪の危険性がさらに高くなってしまいます。日本弁護士連合会も児童ポルノ単純所持犯罪化には反対しています。
 また、実際に児童ポルノ単純所持規制や児童ポルノのブロッキングを行っている国のほうが、日本より児童ポルノ発信数がかなり多いという指摘もあり、このような政策は児童ポルノ対策として効果的とはいえません。
 大阪府など、東京都以外でも同様の問題がある青少年条例改正案をつくる動きは出ているようです。日本中の多くの人の力で条例改正案の内容をよく確認して、役に立たない過剰規制を各地の議会が容認しないようにしてほしいものです。

・関連
→ 不明確な基準で一般人を摘発する表現規制条例
→ 騒動を利用して、無関係な表現まで検閲しようとする団体
→ ネット検閲が日本にも導入されるおそれ
→ いつのまにか過剰になる表現規制
→ 通報されているものはほとんど児童ポルノではない

2017.05.29 Monday

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