2011.03.18 Friday

自然災害と宗教を選挙に利用する石原都知事の「津波は天罰」発言

 知事引退を撤回した出馬会見で石原慎太郎知事が「津波は天罰」と被災者を中傷する宗教的発言をしたうえ、その後の会見で新聞記者から発言意図を確認されても撤回せず「日本に対する天罰だ」と重ねて主張したことが問題になり、宮城県知事から抗議を受けた石原都知事は発言の翌日にようやく謝罪しました。
 東京都の石原慎太郎知事は14日、東日本大震災への国民の対応について記者団に問われ「我欲で縛られた政治もポピュリズムでやっている。それを一気に押し流す。津波をうまく利用して、我欲をやっぱり一回洗い落とす必要がある。積年にたまった日本人の心のあかをね。やっぱり天罰だと思う。被災者の方々はかわいそうですよ」と述べた。
 知事は一連の発言の前に、持論を展開して「日本人のアイデンティティーは我欲になっちゃった。アメリカのアイデンティティーは自由。フランスは自由と博愛と平等だ。日本はそんなもんない。我欲だよ。物欲、金銭欲」と語っていた。
 同日、この後に開いた都庁の記者会見で「天罰」の意味について「日本に対する天罰だ」と釈明。「大きな反省の一つのよすがになるんじゃないか。それしなかったら犠牲者たちは浮かばれない」と話した。天罰について発言した際、「『被災された人は非常に耳障りな言葉に聞こえるかもしれないが』と言葉を添えた」としたが、実際には話していなかった。
(2011.03.14 共同通信)
 東京都の石原慎太郎知事は15日、記者会見し、東日本大震災を「天罰」とした14日の発言について「撤回し、深くおわびします」と陳謝した。
 知事は「行政の長である私が使った『天罰』という言葉に、添える言葉が足りなかった。かつてない困難の中にある被災者の皆さまの失意と無念は拝察するにあまりある。同じ日本に住む者として、明日はわが身、わがことであると思う」と述べた。
(2011.03.15 共同通信)
 では、逆に考えて、石原慎太郎は「我欲を捨て、正しい治世を行なえば、災害は起こらない」と考えているのでしょうか? しかし、そう考えの人間が上に立てば、災害対策が蔑ろにされることは容易に想像がつきます。
 災害と一言で言っても、地震や津波といった自然由来の部分は人間の力ではどうにもならないとしても、備えや事後の対処といった人為由来の部分については、ちゃんとした対策をすれば、ひとりでも多くの人の命や財産を救うことができます。今回の地震と津波は確かに大きな被害を発生させました。報道などでは為す術が無かったかのように報じられていますが、それでも堤防や物資などの備えや、その後の人々の行動が、被害から人々を守ったという側面もあるはずです。
 本来であれば、現在地震の影響を受けている東京都の知事である石原慎太郎が行なうべきは、まず第一に都民の混乱や不安に対する対処、第二に東京の災害対策に対する評価と新たな対策なのですが、石原はそうしたことを飛び越えて、自ら「天罰という宗教的道徳観」に逃げ込み、現実の被害を腐したのです。
(2011.03.16 赤木智弘の眼光紙背)

 「津波は天罰」と発言する3日前の、11日の地震直後の緊急会見では石原都知事は「(東京が)今程度の損壊で済むようなら、他県に比べてありがたい」と、被災者に対して他人事という意識が感じられる発言もしていました。
 また石原都知事は10年前からテレビなどでたびたび「東京湾に造ったっていいくらい日本の原発は安全」と主張していました。しかし現実には、津波による被害を受けた福島原発は以前から「津波が発生した際には機器冷却海水の取水が出来なくなる」と指摘されていたのに、東京電力は津波対策も機器点検も怠っていたのです。

 自然災害の被害に対して「天罰」という言葉を使うことじたい被災者を中傷した問題発言ですが、謝罪会見で石原都知事は「添える言葉が足りなかった」と釈明し「天罰」の存在は否定しませんでした。
 ネット上などでこの石原発言を擁護してる人たちは、発言の前後の文脈では被災者に配慮しているので中傷する意図はないなどと弁明しています。
 しかし、この中傷発言の前後の文脈が噛みあわないのは、石原都知事が「天罰」が実在するという前提で語っているからでしょう。今回の謝罪会見で石原都知事が「天罰」の存在を否定しないのは、被災者への謝罪より石原の選挙を支える宗教団体への配慮を優先しているように見えます。この時期の出馬会見でわざわざ「津波は天罰」という露骨な宗教的発言を行ったのは、これまで石原都知事が「同性愛者は遺伝とかのせい」「変態はDNAが狂ってる」など非科学的な差別発言を繰り返してきたことの延長で、信仰心を示して宗教団体の支持を固めることが目的なのでしょう。討論会も延期され、通常の選挙活動すら自粛されかねない今回の都知事選では、これまで以上に宗教団体の影響力は大きいかもしれません。
 石原慎太郎自身は霊友会の信者で「法華経に生きる」という著書もありますが、それだけではなく慎太郎は崇教真光の教祖を自宅にも招くほど親密で対談本もあり、今回知事引退する意向だった石原慎太郎に出馬を説得した息子の石原伸晃は崇教真光の信者として大祭に出席しています。また、石原親子は個人的に信仰する団体だけでなく複数の宗教団体と関係して選挙協力を受けていることは週刊誌の選挙取材でも指摘されていて、2009年当時全選挙区に候補を擁立していた幸福実現党石原宏高の選挙区では対立候補の出馬をとりやめたり、立正佼成会の拠点である石原伸晃の選挙区で民主党が対立候補を擁立しなかったなど、宗教団体を対立候補の出馬調整にも利用しているようにも見えます。そして今回の都知事選では石原慎太郎は、かつて統一教会の大会に祝電を送っていた松沢成文神奈川県知事を出馬辞退させるかわりに副知事に起用するのだそうです。
石原知事は4選を果たした場合に、松沢氏を副知事など重要ポストで起用する考えを示唆した。
(2011.03.14 時事通信)
 宗教団体などを支持母体とする候補者が、差別的発言を繰り返すことで選挙の争点をずらし、宗教保守層の支持を固める手法は、アメリカなど海外の選挙でもよく使われています。しかし、キリスト教原理主義の人口が多いアメリカ南部と違い、東京都は宗教信者の票だけでは知事選には当選できないはずです。知らないうちに宗教団体の扇動にのせられてしまう人が多いのでしょうか。
(→ 差別発言をくりかえす石原都知事に媚びる週刊誌)

 奈良・平安時代の日本では「天譴(天罰)」という迷信の意味は、儒教の「為政者に対する天の譴責」という思想に基づいていました。ところが、大正の関東大震災の後に内村鑑三などのキリスト教信者などが流行させた「震災は堕落した国民への警告」という狂った言説が、公職者などにとって都合がいいものだったため、日本でも「天譴」という迷信は自業自得という意味にすりかえられ、当時の道徳教育は儒教主義だったのに、震災の後は中学校の「修身」の授業でも被災者の生徒たちに「地震は人々の贅沢を戒める天罰」と教えていたといいます。
 当時の天譴論に対する反論は、実業家の渋沢栄一に反論した芥川龍之介の『大正12年9月1日の大震に際して』にも書かれています。
『日本震災史』によれぱ,「天譴」の思想はもともと儒教主義に基づくものであり、奈良・平安の王朝時代に既にこの「天譴」ということばが用いられているということである。このことばの本来の意味は,「為政者に対する天の譴責」ということだとされているのだが,大正時代に再びよみがえったこの天譴の思想は、少々異なったニュアンスをもって登場してきている。
(1982 仲田誠 『災害と日本人』)
 同胞よ。面皮を厚くせよ。「カンニング」を見つけられし中学生の如く、天譴なりなどと信ずること勿れ。僕のこの言を倣す所以は、渋沢子爵の一言より、滔滔と何でもしやべり得る僕の才力を示さんが為なり。されどかならずしもその為のみにはあらず。同胞よ。冷淡なる自然の前に、アダム以来の人間を樹立せよ。否定的精神の奴隷となること勿れ。
(1923 芥川龍之介 『大正十二年九月一日の大震に際して』)
もし先生の説明を受け容れるならば、このクラスで私だけが天物暴殄の罪を犯して、私だけが天譴を受けたことになるのではないか。私のことなど、どうでもよい。貧しい、汚い、臭い場末の人々、天物暴殄に最も縁の遠い人々、その人々の上に最も厳しい天譴が下されたことになるのではないか。私は、先生の説明が一段落つくのも待たずに、右のような趣旨の質問をした。先生が何とお答えになったかは覚えていない。何とお答えになったとしても、私は「天譴」および「天物暴殄」という概念を受け容れることは出来なかった。
(1975 清水幾太郎 『わが人生の断片』)

 地震の後はさまざまな宗教団体の施設が帰宅難民の一時避難所などに役立っていたという話もあります。しかし、もし被災者に対して「地震は天罰だ」と罵るような宗教団体があったら、人助けをしても偽善にしか見えず感謝されないでしょう。
 同様に「地震は天罰」と主張した人物をまた都知事に選ぶなら、いくら被災地を支援しても、東京都民はインチキ宗教の信者のような人たちだと思われるかもしれません。

・関連
→ ポーランドの「乱交ゲーム」というデマと日本の青少年厳罰論に共通する悪意
→ 差別発言をくりかえす石原都知事に媚びる週刊誌
→ 赤枝医師の発言の信憑性
→ TVタックルで性感染症自己責任論
→ 宗教右翼を煽動したジェリー・ファウエルの残した妄言

2011.01.31 Monday

差別発言をくりかえす石原都知事に媚びる週刊誌

 石原都知事が2010年12月の記者会見で青少年条例の話から、同性愛者について「遺伝のせい」「どこか足りない」など差別的な発言をしたことが毎日新聞や東京新聞や朝日新聞で報道されました。ところが、読売新聞や産経新聞、そしてほとんどのテレビ局は、会見の場に記者がいたはずなのに、都知事の差別発言について報道しませんでした。そして週刊新潮は、都知事の差別発言を批判した人物を槍玉にあげ、さらに性教育まで批判する、まるで宗教広報誌のような論調の記事を掲載して差別に加担しています。
 東京都の石原慎太郎知事は7日、同性愛者について「どこかやっぱり足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティーで気の毒ですよ」と発言した。石原知事は3日にPTA団体から性的な漫画の規制強化を陳情された際、「テレビなんかでも同性愛者の連中が出てきて平気でやるでしょ。日本は野放図になり過ぎている」と述べており、その真意を確認する記者の質問に答えた。
 7日の石原知事は、過去に米・サンフランシスコを視察した際の記憶として、「ゲイのパレードを見ましたけど、見てて本当に気の毒だと思った。男のペア、女のペアあるけど、どこかやっぱり足りない感じがする」と話した。同性愛者のテレビ出演に関しては、「それをことさら売り物にし、ショーアップして、テレビのどうのこうのにするってのは、外国じゃ例がないね」と改めて言及した。
(2010.12.07 毎日新聞 真野森作)
〇七番(福士敬子君) それから、青少年条例は、知事答弁を避けられました。都小P協の要請時、知事が、テレビに同性愛者が平気で出ると発言されたとの報道がありました。条例案を勘違いされていませんか、伺います。発言の趣旨はどんな思いでおっしゃったのか、お答えをいただきたいというふうに思います。以上です。
〇青少年・治安対策本部長(倉田潤君) 本条例案の性交等につきまして、同性か異性であるかということについて何ら変わりはございません。
(2010.12.08 東京都議会会議録)
 東京都の石原慎太郎知事は17日の記者会見で、過激な性描写のある漫画などの販売を規制する都改正青少年健全育成条例が成立したことに関連し「世の中には変態ってやっぱりいる。気の毒な人で、DNAが狂っていて。やっぱりアブノーマル。幼い子の強姦(ごうかん)がストーリーとして描かれているものは、何の役にも立たないし、(百)害あって一利もない」と述べ、規制の必要性を改めて強調した。
(2010.12.17 時事通信)
続いて東京の一般参加者が、
「東京都では性教育への圧力が高まっています。来校した看護師の方に実物のコンドームの装着の仕方は教えてもらえなかったりと、圧力に屈しています」
 また各分科会には、日教組の主張の代弁者である共同研究者がいるが、ここでは、女性の共同研究者が、
「石原都知事が同性愛に対して“足りない”と言うのは、哀しい差別です」
と、こう主張し始めた。
「全体主義の戦争をした国だから同調圧力があり、異質性を認めることができないのです。韓国併合で朝鮮人を無理やり帰化させ、自分たちに同調させた過去がありますからね」
家族は要らず、学校はコンドームの装着法を教えなければならず、同性愛者の権利は認められるべき…。そんなことが“教育研究”の名を借りて、大声で叫ばれているのである。
(2011 週刊新潮 2月3日号 『ゆとりをもう一度! 同性愛者の権利を! 売国と自虐で喝采! 正気を疑う「日教組」亡国の教研集会』) (2011.01.31 yudai TwitLonger)

 石原都知事の「同性愛者は遺伝とかのせい」「変態はDNAが狂ってる」説はまったくデタラメで、暴論の根拠すら示されてません。また、幼い子を強姦する描写がある漫画が一般向けとして売られている実例もありません。「テレビ出演は外国じゃ例がない」説もひどい嘘で、カミングアウトしている有名人や政治家はたくさんいます。レズビアンとして知られている、東京都と姉妹都市提携を結ぶニューヨーク市議会のクリスティン・クイン議長も、石原の差別発言と表現規制を批判しています。

 石原都知事は就任以来、根拠のない偏見に基づいた差別的な発言を数多く繰り返しているのは有名ですが、問題発言をまとめたサイト「石原慎太郎の監視小屋」Wikipediaなどをあらためて見ると、自分が忘れていた事例や見落としていた発言も多くうんざりします。石原親子は複数の宗教団体と関係していることも公言しています。
 2010年の東京都青少年条例の改正について会見などで質問される機会が増えてから、石原都知事はこれまで以上に、宗教的な発言や、LGBTや漫画読者などを蔑視する発言を繰り返すようになりました。しかしテレビ等では相変わらず石原都知事はなぜか大御所タレント的な扱いで、カメラの前で差別発言をしてもほとんど報道されない存在になっています。TOKYO MXテレビではマツコ・デラックスがレギュラー番組『5時に夢中』の中で石原都知事の発言を批判しましたが、MXテレビの幹部は石原都知事の方針に反するアニメ好きを今後は社員に採用しないことも考えていると週刊現代は煽っています。
 宗教団体などを支持母体とする候補者が、差別的発言を繰り返すことで選挙の争点をずらし、宗教保守層の支持を固める手法は、アメリカなど海外の選挙でもよく使われています。しかし、キリスト教原理主義の人口が多いアメリカ南部と違い、東京都は宗教信者の票だけでは知事選には当選できないはずです。知らないうちに宗教団体の扇動にのせられてしまう人が多いのでしょうか。
 さらにこの〔MXの〕幹部は、条例によって番組だけでなく、新卒採用の方針も変えなければならないと頭を抱える。
「うちはアニメに強い放送局ということで学生にも人気があるのですが、会社は『今後のことを踏まえて、アニメ好きを過度にアピールする学生は採用しないほうがいいのでは』と考えています。
(2011 週刊現代 2月12日号) (2011.01.31 かるび Twitter)
今週発行の週刊誌に、TOKYO MXの新卒採用に関して、
「アニメが好きか否か」が採用の基準であるかのような記事が掲載されましたが、
そのような事実はまったくございません。
応募をお考えの皆様、ご心配なくエントリーをお願い申し上げます。
(2011.01.31 TOKYO MX 新卒採用ブログ)
 今回〔2004年米大統領選〕、CNN他のアンケートによると、ブッシュに投票した理由で最も多かったのは「モラル政策」がトップだったと報道された。具体的には中絶問題とそれに伴う幹細胞研究、およびゲイ結婚への反対だ。
 経済政策への関心は二番目で、対テロ、戦争に関する政策は三番目だった。
(2004.11.03 町山智浩アメリカ日記)

 東京都の青少年条例改正案を作成した東京都青少年・治安対策本部の部長らは警察からの出向職員だそうです。東京都以外でも警察関係者が青少年条例を主導している自治体が多いため、警察の権限を拡大する方向に条例改正されているという指摘もあります。かつては警察官の妻たちの組織「母の会」が悪書追放運動を扇動してきたともいわれています。そして警察も条例改正への圧力に宗教系団体の人脈を利用しているため、改正された東京都青少年条例は、近親相姦など宗教的タブーを扱う漫画にだけ異常に厳しい、不自然な条文になっています。
 都条例問題以外でも、必要以上に規制拡大をはかる警察はくりかえし宗教系団体と同じような主張をしています。今年から日本にも導入される見込みの、児童ポルノブロッキングという大義名分のネット検閲制度でも、警察は、どういうサイトが遮断されたのか検証しにくいような方式にこだわっています。エジプトや中国政府のようなネット遮断可能な権力を日本では警察と宗教系団体が握ろうとしてるのでしょうか。
 また、業界は画像が掲載されているサイトの管理者が削除に応じなかったり、警察の捜査が困難だったりした場合に限りブロッキングが可能としているのに対し、警察庁は画像を発見次第、即時にブロッキングができるとしている。設立予定のインターネットコンテンツセーフティ協会には、プロバイダーの意向が反映するとみられ、今後、警察庁の反発も予想される。
(2011.01.31 東京新聞)
 独裁政権転覆を図る大規模デモで緊張が高まる中、エジプト政府は夕べ午前0時頃、全国民8000万人のインターネットを遮断する異例の措置を取りました。
 一体どう切ったのでしょう?
 巨大なレバー、大きな赤いボタンのような「Kill Switch」があってバチンと切った...わけじゃありません。が、それに近いです。エジプト政府が国内大手ISP4社にサービス遮断命令を送ったんですね。
(2011.01.29 ギズモード・ジャパン)


・関連
→ 着衣の少女の彫刻をポルノと中傷され発表の場を失ったドガ
→ 条例改正案を読まずに過剰規制を容認するのは危険
→ 不明確な基準で一般人を摘発する表現規制条例
→ 騒動を利用して、無関係な表現まで検閲しようとする団体
→ いつのまにか過剰になる表現規制
→ 通報されているものはほとんど児童ポルノではない

2010.11.23 Tuesday

さらに差別的になった東京都青少年条例改正案

 「非実在青少年」という語句などが話題になった東京都青少年条例改正案が、問題になった語句などを言い換えた形で再び都議会に提出されました。東京都は記者クラブに対して「条文を修正して規制対象を明確化」と説明したらしく、複数の新聞記事にはそう書かれていますが、実際の改正案条文では漫画の規制範囲が前回より広く不明確になっています。また、13歳未満の水着写真規制や、携帯フィルタリング強制の条文はほぼ前回と同内容で、青少年の表現の自由や知る権利を侵害しています。そして今回も東京都側は議会で審議される直前まで条文を公表していないので、山口貴士弁護士らがネット上に改正案を公開してくれています。
 当初案は、キャラクターながら18歳未満という年齢を定義の1つとしていたが、修正案は刑法に触れる性行為や近親相姦などを「不当に賛美しまたは誇張」した表現を対象にしており、キャラクターの年齢は関係がなくなっている。
 また、当初案では児童ポルノについて、都民は「何人もみだりに所持しない責務を有する」と定め、単純所持規制に踏み込んだ文言が盛り込まれていた。修正案ではこれを削除し、都民に対し「児童ポルノを根絶することについて理解を深め、その実現に向けた自主的な取り組みに努めるものとする」とした。当初案の「青少年性的視覚描写物のまん延防止」といった文言や、「まん延」の防止に向けた事業者と都民の活動を都が支援するよう努めるとした部分なども削除した。
 一方、「13歳未満の者であって衣服の全部もしくは一部を着けない状態または水着もしくは下着のみを着けた状態」の写真などについて、「青少年が性欲の対象として扱われることが青少年の心身に有害な影響を及ぼすことに留意し」、13歳未満がこうした写真や映像の対象にならないよう保護者と事業者に求め、都知事はこのうち「著しく扇情的なもの」に対しては保護者と事業者に必要な指導ができるとしている。
 修正案に対し、山口弁護士は、「不当に賛美しまたは誇張」の部分があいまいで不明確だと指摘。またTwitter上では、「キャラの年齢ではなく描かれた性行為で判断されるため、より広範な表現規制につながるのでは」といった批判が多い。
(2010.11.22 ITmedia News)
第七条中「青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」を「次の各号のいずれかに該当する」に改め、同条に次の各号を加える。
 一 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虜性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
 二 漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
第八条第一項第三号を第四号とし、第二号を第三号とし、第一号の次に次の一号を加える。
 二 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第七条第二号に該当するもののうち、強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を、著しく妨げるものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの
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(青少年を性欲の対象として扱う図書類等に係る保護者等の責務)
第十八条の六の三 保護者等は、児童ポルノ及び青少年のうち十三歳未満の者であって衣服の全部若しくは一部を着けない状態又は水着若しくは下着のみを着けた状態(これらと同等とみなされる状態を含む。)にあるものの扇情的な姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性欲の対象として描写した図書類(児童ポルノに該当するものを除く。)又は映画等において青少年が性欲の対象として扱われることが青少年の心身に有害な影響を及ぼすことに留意し、青少年が児童ポルノ及び当該図書類又は映画等の対象とならないように適切な保護監督及び教育に努めなければならない。
2 事業者は、その事業活動に関し、青少年のうち十三歳未満の者が前項の図書類又は映画等の対象にならないように努めなければならない。
3 知事は、保護者又は事業者が青少年のうち十三歳未満の者に係る第一項の図書類又は映画等で著しく扇情的なものとして東京都規則で定める基準に該当するものを販売し、若しくは頒布し、又はこれを閲覧若しくは観覧に供したと認めるときは、当該保護者又は事業者に対し必要な指導又は助言をすることができる。
4 知事は、前項の指導又は助言を行うため必要と認めるときは、保護者及び事業者に対し説明又は資料の提出を求めることができる。
(第百五十六号議案 東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例)
改正案PDF (2010.11.23 弁護士山口貴士大いに語る)
新旧対照表PDF(2010.11.22 青少年条例と児童ポルノ法改定による表現規制を考える 月刊『創』編集部)
ohkoshitkashi: 「なぜ実写を除くのか」→「じゃあ実写を含めて、範囲を拡大してもいいのですか?それでいいなら削除しますよ」 批判すると対象範囲が広まってしまうという。
(2010.11.22 行政書士 大越隆司 Twitter)
 この追加条文の問題点は以下のとおりです。
 第一に、規制対象が過度に広汎なことです。「刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為」には、強姦罪や強制わいせつ罪等(13歳未満との性交、性交類似行為は当然に強姦罪、強制わいせつ罪になる)だけではなく、いわゆる淫行条例違反、児童福祉法違反等も含まれます。したがいまして、18歳未満に見える、あるいは、設定年齢を18歳未満とするキャラクターを当事者とする性交若しくは性交類似行為は全てこれに該当することになり、「非実在青少年」規制は消えたように見えて残っています。
 しかも、否決された改正案とは違い、設定上18歳以上による「刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為」も規制対象になっています。この点では、むしろ、規制範囲は拡大しています。
 いわゆるボーイズラブも当然に該当します。
(2010.11.23 弁護士山口貴士大いに語る)
 ところが、櫻井氏はあくまでも「内容の規制ではなく描写の規制です」と説明する。
 たとえば、漫画で書かれたキャラクターが、18歳未満のキャラクターであるか、性交している男女が近親にあたるかは、セリフやナレーションなどの文字を読んでいかなければ分からない。
 だが、櫻井氏の見解では「描写=画像+セリフ」であり、内容規制ではないのだという。
 それでは、古典文学の名作『源氏物語』はどうだろう。よく知られているとおり、現在では触法するような性描写を数多く含んでいるし、幾度も漫画化されているのだが......。
「それも描写の内容によります。『源氏物語』の原作には、葵の上とヤッたとか明確に書かれているわけではない。それを、もし性器が露出していないにしても、微に入り細に入り描写したとすれば、それは単に『源氏物語』の呈を借りているだけのものと、判断されるでしょう。もちろん、個別の作品を読んでみなければわかりませんが......」(櫻井課長)
 櫻井課長は今回の条例案は「非実在青少年」問題で紛糾した前回と「言っていることは変わらない」ものだとも話す。
「前回の条例案は年齢などが描いてあるものの、どういった行為が当てはまるのか明確ではなかった。そこで今回の条例案では、施行規則で定める予定だったものを含めた形になっているんです」(櫻井課長)
(2010.11.23 日刊サイゾー 昼間たかし)
 東京都の櫻井美香青少年課課長は「内容の規制ではなく描写の規制です」と説明していますが、性行為を絵によって「微に入り細に入り描写した」漫画は改正前の現行の青少年条例で不健全指定されているので、今回の条例改正とは関係ありません。
 しかも櫻井課長は「前回と言っていることは変わらない」と説明しています。改正案提出前に都が問題視している出版物の例として提示した図書には直接的な性描写がない漫画『僕は妹に恋をする』『奥サマは小学生』があったことから解釈すると「刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように」という条文はおそらく「露骨な性器描写や性交場面が画面になくても、強姦や近親相姦や低年齢性交を連想させる描写がある漫画は不健全指定」という意味なのでしょう。
「意見交換会の時に、さまざまな作品を見せて"これはどうなんだ"と問いただしたら、『僕は妹に恋をする』(小学館『少女コミック』掲載の少女マンガ)まで"近親相姦だからダメ"と言われた。意見交換じゃなくて査問みたいな感じでしたよ」(出版関係者)
(2010.11.17 日刊サイゾー 昼間たかし)
 そもそも「漫画、アニメーションその他の画像」と限定した条文なのに、具体的な絵の問題ではなく、セリフの言葉・設定まで「描写」として規制基準となるなら、小説と漫画を分けて規制する必要がありません。つまり、今回の改正案が通ってしまえば東京都は今後の青少年条例改正で漫画・アニメ以外の表現にも規制範囲を拡大しやすくなると考えられます。
 たとえば、親子間の性的虐待を描いた漫画はどうなるのでしょうか。ストーリーの一部には、加害者側の心情として「賛美し又は誇張する」表現が出てくるかもしれませんが、何をもって「不当」とするのでしょうか。
(2010.11.23 てっちゃんの生きづらさオンライン@Ameba 渋井哲也)
mittochi: 近親相姦がいけないのは当然。しかし『なぜいけないのか』といえば、家庭内での強者(大抵は親)が弱者(子供)を性的に搾取する結果になるから。つまり、規制されたり教育されたりする必要があるのは被害者である子供ではなく、加害者である大人の側であるはずです。
(2010.11.22 水戸 泉・小林来夏 Twitter)
ogi_fuji_npo: 人類の歴史において、「どんな性のあり方がタブーか」は、極めて流動的でした。異人種間の性交渉、同性間の性交渉、身分差のある者同士の性交渉、それらはどう扱われてきたでしょうか? 現実の禁忌であるからこそ、それを語ることには意味があります。社会は常に弁証法的に問われ続けるべきなのです。
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ogi_fuji_npo: 東京には、近親間性交渉の結果誕生した人たちが暮らしている。彼ら一人一人に、「自分自身を語る権利」がある。何を肯定的に語るか、何を否定的に語るかを、石原さんに決める資格があるのだろうか? それとも石原さんは、そういった人々をガス室送りにでもしたいのだろうか?
(2010.11.22 荻野幸太郎 Twitter)
 2010年9月の東京都青少年健全育成審議会で、一部の委員が「男女より男と男のラブストーリーのほうが法律的にはよくない」という異常な発言をしていたことも、ブログ「反ヲタク国会議員リストメモ」などでとりあげられ話題になりました。日本の法律は聖書ではないので、同性間の恋愛を禁止する法律はありません。このように宗教と法律を混同している委員が、条例改正後に「刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為」を判断するようになることも問題なのですが、今回の条例改正案ではこの委員のような宗教道徳的意見に合わせて、違法ではない「婚姻を禁止されている近親者間における性交」を「刑罰法規に触れる性交」と同じ規制の枠に含め、条文が差別的になり宗教色を強めています。
 そして青少年条例の宗教色が強くなると同時に、規制反対派議員へのバッシングも激しくなっているようです。6月の都議会本会議でも、条例改正案に賛成する自民・公明の都議が、反対討論を行う女性都議を性的に中傷する差別的なヤジを飛ばしていたことが指摘されています。
○■■委員 2番、3番、4番は、今までと同じで本当にセックス描写が多くて指定やむなしですけれども、1番のここに書いてある男と男のラブストーリーといいますか、そういう意味で、絵だけ見たら男女の卑わいさというのは私としては余り感じないのですけれども、青少年に与える影響としては、男女より男と男のラブストーリーのほうが法律的にはよくないのかなと。それを奨励するというのはいけないんですかね。日本の法律としてはどうなんだろうと今考えてしまったんですけれども。
(2010.09.13 第604回 東京都青少年健全育成審議会 議事録)
 注目を集めた条例改正案は結局、6月16日の都議会本会議で否決された。しかし、それは極めて僅差の採決だった。賛成は都議会の与党・自民党と公明党で、合計議席数は61。反対の野党・民主党と共産党の合計議席数も61であり、3議席を持つ「生活者ネットワーク」が反対に回ったことによる辛うじての否決だった。
 その議場では劣勢に立たされた与党席から酷い野次が飛び、改正案への反対討論を行う女性都議に愚劣な罵声が浴びせられる始末だった。
「子どもの敵!」
「お前、痴漢されて喜んでるんだろっ!」
 少なくとも私の目には、それが「表現の自由」を踏み越えてまで「青少年の健全育成」を目指すに値する姿には見えなかった。
(「プレジデント」2010年7.19号 青木 理)(2010.07.01 雪沢村)


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