2010.10.27 Wednesday

着衣の少女の彫刻をポルノと中傷され発表の場を失ったドガ

14歳の小さな踊り子 ポルノだとか有害だとされる基準は、その時代の宗教や権力の都合によって大きく変わるものなので、芸術作品は破壊せずに後世に残さなければいけないということを、すべての人が忘れないでほしいものです。

 2010年12月まで横浜美術館で行われているドガの展覧会にあわせて、10月10日のNHK教育『日曜美術館』が、ドガの有名な絵画「エトワール」でバレエのステージ袖に描かれている男性の意味について解説していました。これは当時バレリーナを性の対象としていたパトロンたちがステージ裏からバレリーナを品定めする状況を描いているのだそうです。
 目の病気を抱えながら作品を描き続けたが視力が衰えて鮮やかな絵画を描けなくなり晩年はほとんど作品を発表していなかったドガの死後、アトリエから未発表の150体のバレリーナの彫刻が発見されたというエピソードも番組で語られていました。ドガは生前に彫刻を1体だけ発表しているのですが、バレエの衣装を着た14歳の少女がまっすぐ立っているだけの画期的な彫刻を汚らわしいポルノだと中傷されたため、その後ドガは彫刻をひとつも発表できなかったのです。
 NHKは6月にもBSでドガの特集番組を放送していて、こちらはもうDVD化されているようです。
朝日新聞の番組紹介によると
 今でこそハイカルチャーの一端を担うバレエだが、貧しい移民が食いぶちを稼ぐ手段だった時代もあるという。「踊り子の画家」とも呼ばれるドガが一心にバレリーナを描いたのは、そんな19世紀後半のフランスだ。肌の露出が多い衣裳で人前に出ることはふしだらだとされ、踊り子たちは男たちの欲望の対象に。あどけない少女の肉体をリアルに模したドガの彫刻は、汚らわしいポルノだとひんしゅくを買う。だが視力が衰えていく病を患いながらも、ドガは華やかなパリの裏側にある現実から目をそらさない。苦境に生きる少女たちの味方として。華やかな色彩が思い浮かぶ印象派の中では地味な存在だと感じていたドガのイメージが変わった。
(2010.06.02 Ballet Square)

 このような芸術の歴史から学ぶことはとても重要です。フランスのマスメディアは現在でも芸術の弾圧には批判的で、最近ではヌード写真展にパリ市が年齢制限をつけたことに抗議した大手新聞が問題のヌード写真を一面に載せたそうです。
 ところが、ベルサイユ宮殿を建設したフランス王ルイ14世の子孫らは、現在、宮殿で展覧会を行っている村上隆の作品をポルノだと中傷し展覧会の中止を求めているのだそうです。
 Larry Clark という写真家の回顧展に市当局が年齢制限をつけたということでもめている。Teenage Lust という有名な写真集になっているもので、18歳未満が含まれているか厳密にはいえないけどその流れもあるっぽい。
(2010.10.15 崎山伸夫 Twitter)
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 英語での記事はこちら http://bit.ly/cnCYTd ル・モンドが報じて、年齢制限への抗議の声が沸き起こってリベラシオンは紙上とオンライン版の両方で写真を大々的に載せるという事態に。
(2010.10.15 崎山伸夫 Twitter)
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 リベラシオンの一面の写真は、単なるヌードではなくて、10代のカップルが車の後部座席で全裸で抱き合って互いの性器をまさぐっている写真。でもアート。日本の新聞社が表現の自由のための抗議としてここまでやるかというと、絶対にないわけで、そこらへん、大きな違いを感じざるをえないですね。
(2010.10.15 崎山伸夫 Twitter)
 漫画などをモチーフにした村上さんの計20作品が宮殿の内外に展示されていることについて、シクストアンリ公らの団体は「世界遺産にポルノ作品を飾っており、(自分の)祖先に対する冒涜に当たる」と非難。来週にも中止を求め行政裁判所に仮処分を申請する。
(2010.10.23 共同通信)
 村上隆も作品で示しているように性的な表現にも芸術として残すべき価値があり、性的な表現を行う作家を弾圧するのは間違いです。
 たとえば長崎県は、春画の画集を2008年に有害図書に指定しましたが、日本の美術史を代表する浮世絵師のほとんどが春画も制作しています。
悪書追放運動
(映像:日本ニュース 日本映画社)
ナレーション「昭和20年代末、子供の健全な成長を阻むものだと、週刊誌や漫画を追放する運動が起こりました。この悪書追放運動の矢面に立たされたのが、子供たちに人気のあった手塚の漫画でした」
(2006 NHKスペシャル ラストメッセージ・手塚治虫)
 NHKの連続ドラマ『ゲゲゲの女房』では、1950年代の「悪書追放運動」で貸本屋が弾圧されたエピソードがありました。ドラマでは貸本屋が市民団体に襲撃される場面しか描かれませんでしたが、現実には手塚作品なども含む大量の漫画本を燃やすという文字通りの焚書が行われていたことが、当時のニュース映像に残っています。
 現在も各自治体で行われている青少年健全育成条例による有害図書指定は、かつて焚書を行った凶悪な団体が残した負の遺産なのです。そして、成人女性によるコスプレ映像や、漫画・アニメ・ゲームなどで描かれた架空の青少年の性的な表現を、準児童ポルノとして児童ポルノ法で処罰するべきだと主張する日本ユニセフ協会らの近年の活動も、現実の虐待被害児童を救うという児童ポルノ禁止法の本来の目的から逸脱し、焚書を招くものです。
 こんな話はおおげさだと思われるでしょうか。しかし、実際にいま自治体の有害図書を指定する審議会のなかにも、まるで「聖書こそが日本の法律」「ゲイの青少年の存在は認めない」というカルト宗教信者のような考え方の委員がいるようなのです。もしかするとこの委員は「健全育成」とか「有害指定」という言葉も宗教的な意味でとらえているかもしれません。
 キリスト教原理主義の人口が多いアメリカでは最近、各地の学校でゲイの生徒が執拗にいじめられ自殺に追い込まれる事件が相次いでいるといいます。日本の青少年の人権をこういう宗教的偏見から守るためには、安易な規制ありきの青少年健全育成条例が偏見を助長している構造は見直すべきでしょう。
○■■委員 2番、3番、4番は、今までと同じで本当にセックス描写が多くて指定やむなしですけれども、1番のここに書いてある男と男のラブストーリーといいますか、そういう意味で、絵だけ見たら男女の卑わいさというのは私としては余り感じないのですけれども、青少年に与える影響としては、男女より男と男のラブストーリーのほうが法律的にはよくないのかなと。それを奨励するというのはいけないんですかね。日本の法律としてはどうなんだろうと今考えてしまったんですけれども。
○会長 法的にですか。
(2010.09.13 第604回 東京都青少年健全育成審議会 議事録)
 アメリカで最近起こった反同性愛者いじめと若者同性愛者の自殺が大きな話題となっているわけだが、そんな中専門家たちの元には、若者同性愛者にとって最も苦しい時期は、自己発見が重点的に起こると同時に、いじめと不寛容がピークに達する、中学生時代だという事例が多く集まっている。
(2010.10.12 Seattletimes)(2010.10.18 GEIRO.org)
 Asher Brownさんの両親は、何度も学校にいじめの事実を訴えたのにまともに受け取ってもらえなかったと言っています。
(2010.10.02 みやきち日記)


・関連
→ 条例改正案を読まずに過剰規制を容認するのは危険
→ 不明確な基準で一般人を摘発する表現規制条例
→ 騒動を利用して、無関係な表現まで検閲しようとする団体
→ いつのまにか過剰になる表現規制
→ 通報されているものはほとんど児童ポルノではない

2010.06.02 Wednesday

ポーランドの「乱交ゲーム」というデマと日本の青少年厳罰論に共通する悪意

 人口の95%がカトリック信者で、緊急避妊薬(アフターピル)も中絶手術も法律で禁止されていて、昔から平均初婚年齢が早い、ガチガチのキリスト教国・ポーランドでも、他国と同様に若年妊娠は社会問題になっています。現在のポーランドは他国よりも性教育開始年齢が遅いらしいので、対応するためには早期性教育が求められるはずです。ところが、性教育は聖書に反する行為と考え性教育の必要性を認めないキリスト教原理主義者は「普通のカトリック信者の中学生の妊娠が増加」という事実から目をそらし、原因探しを「不道徳な若者の宗教離れ」的な論調にすりかえるために「中学生が乱交ゲーム『太陽と月』で妊娠」というデマをでっちあげて妊娠した少女たちを中傷しているのでしょう。同じ地域で学生が妊娠したことが話題になると、根拠なく「あの子は悪い遊びをしてた」というデマを捏造する大人は日本にもよくいますよね。
 案件を担当している警察のTomasz Klimekさんは、1つの学校で少女が5人妊娠したということは事実とした上で、乱交騒ぎはあくまでゴシップであると噂を否定。すべての生徒はちゃんとした相手がおり、将来的には家族を作ることを保証するとしました。この案件について警察は捜査を行っていますが、乱交についてではなく、違法である15歳以下の少女との性交があったのではないかということの捜査だそうです。
 「性教育はタブー視されがちですが、封じ込めれば封じ込めるほど若者は冒険に走ったり反対のことをしでかしたりします。ちゃんと性教育を受ければ状況は改善するでしょう」と性科学を研究するZbigniew Izdebski教授は語っています。
(2010.06.01 GIGAZINE)
 この記事でも、ポーランドでは15歳以下の男女の性交は違法と書かれています。また、ポーランドでは法的には結婚が可能な年齢は女性18歳・男性21歳が原則(ただし妊娠した場合などは女性16歳・男性18歳で結婚可能)。テレビ放送まで厳格に年齢区分されているポーランドですが、法規制や宗教道徳だけでは現実の青少年の性行動を変えることはできなかったわけです。
 また、ポーランドでは各テレビ番組に年齢制限がつけられていて、画面の隅に特殊な記号が表示される。それぞれの記号を見れば、その番組がどの年齢層に適した番組なのか明確にわかるようになっている。2005年に改正された定義では、以前にも増して詳しい区別がされるようになってきた。
(2006 「ポーランドにおける日本アニメと漫画」 中西めぐみ)
〔ポーランドでは、小学校から高校まで〕学校は知識やマナーを教えるところとされ、家庭でマナーや倫理観、精神的に善良な人間になるための教育をする。
(2009.03 外務省 諸外国の学校情報 ポーランド)
 ポーランドの保守政権は28日、同性愛を推奨する表現が見られるとして、幼児向けテレビ番組『テレタビーズ』に批判の矛先を向けた。
(2007.05.28 ロイター エキサイトニュース)

 さて、このような中傷による魔女狩りは遠い外国だけの出来事ではなく、日本でも昔から青少年規制論者は同じような言説で未成年を中傷しています。
 2003年の東京都議会では公明党の議員が「エイズは天罰」という趣旨の発言をした後、若年層のHIV感染者を中傷する言説を引用したことがありました。5年後の2008年に東京都エイズ専門家会議がまとめた最終報告を見てもわかるように、この公明党議員が引用した赤枝医師のHIV感染者に対する独自見解は現実とはかけ離れています。日本では感染症法によってHIV感染者・エイズ患者は全数報告が義務づけられていますが、実際には10代女性のHIV感染者は数年に1人、10代女性のエイズ患者は過去25年間で1人しかいません。そしてHIV感染者はイギリスやオーストラリアなど法規制の厳しい宗教国のほうが大幅に増加しています。
〇三十九番(中嶋義雄君) 知事は、今定例会の所信表明におきまして、エイズ問題に触れられました。
 かつて清水幾太郎氏は、古来からの天譴思想を紹介し、日本人にとって地震は世の混乱を正す天の譴責であったと書いたことがございます。それに倣っていえば、エイズこそまさに天譴であるのかもしれません。
 それはともかく、近年、エイズへの関心が低下しておりますが、知事が指摘するとおり、事態は深刻でございます。献血からエイズ感染が発見される割合は依然として高く、また、先進国の中でエイズ感染者の増加率が上昇している国は日本のみでございます。
 こうした指摘を通して、長年、エイズ問題の深刻さを訴え、ボランティアで無料相談やエイズ検査を行ってきたのが、赤枝六本木診療所の赤枝恒雄医師でございます。マスコミ等でも紹介され、ご存じの方も多いかもしれませんが、昨年、公明党の女性局が同医師を訪問し、私も二十一日の日曜日に訪ねてまいりました。赤枝医師から聞かされたエイズ問題の実態には、身の毛のよだつ思いがいたします。
 同医師によりますと、二十五歳以上のエイズ感染者はほとんどが男性であるのに対し、二十歳から二十四歳までは約六〇%が女性であり、十代ではそれが約七〇%に上るといいます。しかも、十代の女性の感染者の多くは中学生や高校生であり、いわゆる援助交際という名の売春行為でエイズに感染し、親に相談するわけにもいかず、したがって公的な助成等は一切受けられません。
(2003 東京都議会第3回定例会会議録)
 2010年5月18日、東京都議会の総務委員会で東京都青少年健全育成条例改正案に対する参考人意見聴取が行われ、規制派と反対派それぞれ2名づつ参考人が発言しました。規制に賛成する参考人のひとりとして登場した赤枝医師はいつもの調子で、もともと18歳以上だけしか購入できないように区分陳列されているアダルトビデオに関する独自見解や、未成年の性行為についての独自見解など、持論を披露していたそうです。しかし成人指定商品の区分陳列については、現行の青少年条例に基づいて各販売店への調査・指導が毎月行われています。条例改正案に対する意見聴取の場で今回の改正案の内容とはかけ離れた話ばかりしていた赤枝医師がどういう意図で規制に賛成しているのかよくわからないという感想を持った人も多いようです。
漫画の影響によって「女の子を選ぶ基準がブスでもいいからやらせてくれる子」「日本はレイプ地獄」となったと主張し、都条例改正案を正当化している赤枝恒雄氏は、マスコミに度々登場しているので知っている方も多いかと思います。この産婦人科医師は昔から「10代の中絶・性病を撲滅する為に漫画の性描写を法規制するべきだ」という自論を唱えており、規制派の政治家・官僚・マスコミ関係者らに重宝がられています。
(2010.5 東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト)
参考人として出席した産婦人科医は、性病に感染する小中学生が急激に増えていることを挙げて、「子供らはだいたい漫画を持っている。もう待てないほど急ぐ問題。子供を守るための指針がほしい」と話し、条例の改正を求めました。
(2010.5.18 テレ朝news)(sd-m.jp)
 同じく賛成派で六本木で産婦人科医院を開業する赤枝恒雄医師は「反対派は現実を見ていない。子供たちはセックスを『面白い、楽しい』という情報だけで行っている」と、現場の目線から報告。
 その上で、子供の性病や中絶の多さを示し、「アダルトビデオの婦女暴行ものは女性も喜ぶという内容で、成人向け漫画も性行為をオーバーに伝えている。メディアリテラシーを育てるために規制はいけないとはとんでもない」と改正案の早期施行を訴えた。
(2010.5.19 産経新聞)
山口拓(民主)理事質疑
 山口:厚労省の定点観測によると性感染症は増えていないが
 赤枝:インフルエンザと違って子どもが親に保険証を借りられないため病院に行けない。したがって定点観測では議論できない。我々がやっている無料検査でやっとデータが出る。
(2010.05.19 草冠に西 都議会総務委員会傍聴記 参考人赤枝恒雄氏の意見聴取)
…………
【追記】
 2007年から港区が行っている事業により、港区内の拠点病院では誰でも匿名・無料で性病検査が受けられるので、赤枝医師の「〔保険証やお金の問題で〕定点観測になっているきちんとした病院に、子どもたちがやっぱり行けない」発言は、港区の実態とは違います。
 赤枝六本木診療所赤枝議員のHPでは、この港区の無料性病検査事業(AIチェック)を赤枝医師の功績としています。
 ところが赤枝医師はなぜかAIチェック開始後も、取材が来るときだけ不定期に行う赤枝医師の無料検査しか港区に存在しないように思わせる発言を続けているため、赤枝医師が出演したテレビ番組では港区の無料性病検査事業は紹介されません。
…………

 厚生労働省の統計では2003年以降は未成年の性病は減っていて、東京都内の保健所などで全年齢合計年間1.5万人(男性9千人・女性6千人)が受けている匿名・無料の性病検査でも女性の陽性率は減少しています。だから赤枝参考人は発言後の質疑でも都議から独自見解の信憑性について指摘されたのですが、テレビ朝日と産経新聞はなぜか赤枝医師の独自見解をそのまま報道しています。どこで検査を受けたとしても抗生物質による性感染症治療薬の購入には医師の処方箋が必要で、赤枝説は不自然です。
 赤枝医師はどこで発言するときも独自見解による数値を多用しますが、厚生労働省や自治体保健課が集計した統計値はほとんど引用しません。つまり昔から自民・公明は青少年規制に都合のいい都市伝説を議会に持ち込む道具として、厳罰論者の赤枝医師を利用しているのでしょう。
 赤枝医師の持論である性交同意年齢引き上げ・未成年性交罰則化は、現実には性交した少女の負担を増やすだけで青少年のためにならないので、赤枝と同じ立場の医師からも過去に何度も目の前で反論されていますが、赤枝医師は他人の話には耳を貸さずどんどん極端な厳罰論者になっています。もしかすると赤枝医師は、「エイズは天罰」という宗教的発言をした議員と同じような信念を持っているのかもしれません。

・関連
→ 宗教右翼を煽動したジェリー・ファウエルの残した妄言
→ 赤枝医師の発言の信憑性
→ TVタックルで性感染症自己責任論
→ 条例改正案を読まずに過剰規制を容認するのは危険
→ 不明確な基準で一般人を摘発する表現規制条例
→ 青少年のセックスは法律で禁止しても減らない


2010.05.22 Saturday

2009年のHIV検査件数が減少、新規HIV感染者報告数も減少

 厚生労働省のエイズ動向委員会(委員長・岩本愛吉東京大教授)は12日、国内で2009年に新たに報告されたエイズウイルス(HIV)感染者は1008人、エイズ患者は420人で、計1428人との速報値を発表した。08年の確定値(1545人)比で8%減。03年以降、過去最多を更新し続けていたが、7年ぶりに減少した。
 ただ感染の有無を調べる抗体検査件数は08年から約15%減少しており、これが影響したとみられる。新型インフルエンザ流行でHIVへの関心が薄れたり、啓発不足になっている可能性もあり、厚労省の担当者は「危機感を持っている」と話した。
 感染者・患者の94%は男性。感染経路では同性間の性的接触が62%、異性間が24%だった。ほとんどの年代で感染者は前年より減ったが、30代だけが4%増の581人で、人数も全年代を通じて最も多かった。
(2010.02.12 共同通信)
 〔HIV検査件数の〕減少の理由としては、新型インフルエンザのほか、公共広告機構(現ACジャパン)によるPRが今年6月末で終了した影響も考えられるという。同委員会委員長の岩本愛吉東京大教授(感染症学)は「深刻な事態。12月1日の世界エイズデーのイベントなどを通じ、検査の重要性を周知したい」と話している。
(2009.11.24 読売新聞)
 厚生労働省エイズ動向委員会から2009年の国内の新規HIV感染者・エイズ患者報告数の速報値、東京都福祉保健局から都内の新規HIV感染者・エイズ患者年間報告数が公開されています。それぞれ詳細な年報は例年6〜7月に公開されます。
……
【追記】厚生労働省から2009年の確定値が発表されました。
 厚生労働省のエイズ動向委員会の岩本愛吉委員長(東大医科学研究所教授)は5月27日、2009年のエイズ発生動向の概要について発表した。09年の年間報告(確定値)によると、新規HIV感染者は過去最高だった08年の1126件から105件減の1021件で、新規AIDS患者は過去最高だった08年と同数の431件だった。
 保健所などにおけるHIV抗体検査件数は15万252件で、前年比2万6904件減だった。岩本委員長は、新規HIV感染者の報告数と検査件数の減少について、「一見、同期しているように見えるが、それが本当に同期しているのか、検査が減ったから感染者の報告も減ったのかということに関して、まだ結論付けるのは早いというのが動向委員会の委員の考えだ」と述べた。
 また、新規のHIV感染者とAIDS患者に占めるAIDS患者の割合が、08年の27.7%から09年は29.7%に増加している点について岩本委員長は、「エイズを発症して感染が見つかる方の数が増えている。まず、検査機会などを利用して早めに治療してもらうことが非常に大事と思っている」と強調。
 さらに、地域ブロック別の患者の新規報告数で、「東京を中心とした関東ブロック等では、エイズ報告数は減少あるいは頭打ちの傾向を示しているのに、近畿、九州でエイズとして発見される方々が増えていることは非常に問題が大きい」と述べ、検査機会が十分なのかなど原因を精査する必要性を指摘した。
(2010.05.27 キャリアブレイン)
……

 厚生労働省エイズ動向委員会の発表からは、
  • 新規HIV感染報告数が前年比9%減少(2007年と同程度で過去3番目に高い水準)。
  • 全国保健所等での無料HIV検査件数が前年比16%減少(2007年以前の水準)。相談件数も前年比16%減少。
  • 献血件数は前年比4%増加しているが、献血者中のHIV陽性件数が前年比4%減少した(献血10万件当たりの陽性件数は1.9件で、前年比8%減少)。
  • 検査件数減少により、エイズ発症まで感染に気付かない割合が増加。年齢別では、30代および30歳以上の新規エイズ患者数が増加。
 東京都福祉保健局の発表からは、
  • 都内では新規HIV感染報告数は前年比17%減少したが(2006年と同程度)、新規エイズ患者数は前年比4%増加。
  • 都内では新規HIV感染者数・新規エイズ患者数とも40歳以上が増加し、40歳未満が減少している。
  • 無料HIV検査件数は都内保健所では前年比10%減少、南新宿検査・相談室では前年比6%減少。相談件数も前年比12%減少。
ということがわかります。
前年と比較して、検査件数が約27,000件、相談件数が37,000件減少した。その一因として、新型インフルエンザの影響を受けた可能性は否定できない。
(2010.02.12 エイズ動向委員会 委員長コメント)
 同性間性的接触による報告数は、増加傾向であったが、平成21年は前年と比べ80件減少した。
 異性間性的接触による報告数は、100件弱で推移している。
(2010.03 東京都福祉保健局健康安全部感染症対策課エイズ対策係)
 実際には病院などでHIV検査を受けている人のほうが多いとはいえ、保健所等で自発的に無料HIV検査・性病検査を受ける人のほうがHIV陽性率が高いので、保健所等でのHIV検査件数の減少と連動して新規HIV感染報告数が減るのは良くない傾向です。地域差はありますが、全国的にこの傾向が続くとエイズ発症まで感染に気付かない割合が高くなり、感染拡大につながります。
 たとえば東京都エイズ専門家会議の報告では、保健所等での無料HIV検査の受検者の約8割が40歳未満とされていました。ところが2009年の都内の新規エイズ患者は約6割が40歳以上です。
 昨年全国的に保健所等でのHIV検査件数や電話相談件数が減少したのは、テレビCMが終了したことと、新型インフルエンザ対策の影響で、無料HIV検査の日程や啓発が減ったことが原因とされています。たとえば毎年12月は世界エイズデーのキャンペーンで検査件数が多いのですが、2009年は例年より減少しています。
 そして昨年のHIV感染報告数が減った影響で今年はニュースなどでHIVについて扱われる機会も少なくなっているようです。しかし、これまでHIV感染者数増加というニュースはメディアでは単に不安を煽る若者叩きネタや感染者差別の道具として使われることも多かったので、ただメディアに露出すればHIV検査件数が増えるとは思えません。
 地方の保健所では、定期的な無料HIV検査を平日月1〜2回、数時間しか行わない傾向があるので、数年前まで年間HIV検査件数は横ばいの地域が多かったのですが、週末などにも臨時無料HIV検査・性病検査を不定期に行うことで、2008年の保健所等でのHIV検査件数は2002年の約3倍に増加していました。2003年から2008年まで日本でHIV感染報告が増え続けていたのは、全国の保健所が無料HIV検査・性病検査の日程を増やした効果も大きかったはずです。
 全国で唯一毎日無料HIV検査を行っているため検査件数の増減が少ない東京都南新宿検査・相談室でも、昨年の検査件数は過去6年間で最も少なかったようですが、HIV検査件数を増やすにはやはりまた全国的に無料HIV検査の日程や啓発を増やしていく必要があるでしょう。
 ちなみに厚生労働省とエイズ予防財団では2007年から5年間でHIV抗体検査受検者を2倍にするという目標で研究事業を行っているらしいのですが、2008年に大阪で実験的に啓発広告キャンペーンを行った際にはせっかく検査希望者が増えたのに全員が無料HIV検査が受けられる環境を用意してなかったそうです。
 また、本研究のキャンペーンに伴って、受検者数の大きな増加が認められたために、大阪府内等で、検査体制のキャパシティを超える状況が生じた。
(エイズ予防のための戦略研究 _ 研究課題2 平成20年度報告書)

 さて、日本赤十字は昨年まで献血者のHIV陽性率の微増の要因を献血者だけのせいにした「検査目的で献血する人が増加」というコメント発表を毎年続けていて、2005年の献血者のHIV陽性率が減少したときは「検査目的の献血が減少」と発表していたようですが、2009年の献血者のHIV陽性率が微減したことについてはなにもコメント発表しないようです。日本赤十字の統計によれば、梅毒などによる献血不合格数と比較してもHIVが理由の献血不合格数は極端に少なく、HIV以外の原因を含めた検査不合格率も減少が続いているので、事前の問診で嘘をついて故意に検査目的で献血する人が現実に問題になるほど多かったとは思えません。
 もともと日本の献血者のHIV陽性率は、妊婦のHIV陽性率の半分以下で、それほど高くありませんでした。都内保健所の統計を見ても、保健所等で自発的に無料HIV検査を受ける層のHIV陽性率は、献血者全体のHIV陽性率の100倍以上も高率です。
 これまで献血常連者からHIV陽性が出ていたこともわかっているのに、日本赤十字が「感染の疑いがある方は、絶対に献血しないで下さい」という発表しか行ってなかったのは的外れです。昔から指摘されているように、日本赤十字が献血前の問診で、献血者がコンドームを使用しているか確認し、献血者にコンドームの必要性を周知すれば、HIVなど性感染症による献血不合格率はさらに減らすことができるはずです。

・関連
→ 日本赤十字社は献血の問診項目を変更するべきだ
→ 「HIV検査目的の献血」は本当に多いのか
→ 日本で新規エイズ患者数が減らない理由
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