2010.06.02 Wednesday

ポーランドの「乱交ゲーム」というデマと日本の青少年厳罰論に共通する悪意

 人口の95%がカトリック信者で、緊急避妊薬(アフターピル)も中絶手術も法律で禁止されていて、昔から平均初婚年齢が早い、ガチガチのキリスト教国・ポーランドでも、他国と同様に若年妊娠は社会問題になっています。現在のポーランドは他国よりも性教育開始年齢が遅いらしいので、対応するためには早期性教育が求められるはずです。ところが、性教育は聖書に反する行為と考え性教育の必要性を認めないキリスト教原理主義者は「普通のカトリック信者の中学生の妊娠が増加」という事実から目をそらし、原因探しを「不道徳な若者の宗教離れ」的な論調にすりかえるために「中学生が乱交ゲーム『太陽と月』で妊娠」というデマをでっちあげて妊娠した少女たちを中傷しているのでしょう。同じ地域で学生が妊娠したことが話題になると、根拠なく「あの子は悪い遊びをしてた」というデマを捏造する大人は日本にもよくいますよね。
 案件を担当している警察のTomasz Klimekさんは、1つの学校で少女が5人妊娠したということは事実とした上で、乱交騒ぎはあくまでゴシップであると噂を否定。すべての生徒はちゃんとした相手がおり、将来的には家族を作ることを保証するとしました。この案件について警察は捜査を行っていますが、乱交についてではなく、違法である15歳以下の少女との性交があったのではないかということの捜査だそうです。
 「性教育はタブー視されがちですが、封じ込めれば封じ込めるほど若者は冒険に走ったり反対のことをしでかしたりします。ちゃんと性教育を受ければ状況は改善するでしょう」と性科学を研究するZbigniew Izdebski教授は語っています。
(2010.06.01 GIGAZINE)
 この記事でも、ポーランドでは15歳以下の男女の性交は違法と書かれています。また、ポーランドでは法的には結婚が可能な年齢は女性18歳・男性21歳が原則(ただし妊娠した場合などは女性16歳・男性18歳で結婚可能)。テレビ放送まで厳格に年齢区分されているポーランドですが、法規制や宗教道徳だけでは現実の青少年の性行動を変えることはできなかったわけです。
 また、ポーランドでは各テレビ番組に年齢制限がつけられていて、画面の隅に特殊な記号が表示される。それぞれの記号を見れば、その番組がどの年齢層に適した番組なのか明確にわかるようになっている。2005年に改正された定義では、以前にも増して詳しい区別がされるようになってきた。
(2006 「ポーランドにおける日本アニメと漫画」 中西めぐみ)
〔ポーランドでは、小学校から高校まで〕学校は知識やマナーを教えるところとされ、家庭でマナーや倫理観、精神的に善良な人間になるための教育をする。
(2009.03 外務省 諸外国の学校情報 ポーランド)
 ポーランドの保守政権は28日、同性愛を推奨する表現が見られるとして、幼児向けテレビ番組『テレタビーズ』に批判の矛先を向けた。
(2007.05.28 ロイター エキサイトニュース)

 さて、このような中傷による魔女狩りは遠い外国だけの出来事ではなく、日本でも昔から青少年規制論者は同じような言説で未成年を中傷しています。
 2003年の東京都議会では公明党の議員が「エイズは天罰」という趣旨の発言をした後、若年層のHIV感染者を中傷する言説を引用したことがありました。5年後の2008年に東京都エイズ専門家会議がまとめた最終報告を見てもわかるように、この公明党議員が引用した赤枝医師のHIV感染者に対する独自見解は現実とはかけ離れています。日本では感染症法によってHIV感染者・エイズ患者は全数報告が義務づけられていますが、実際には10代女性のHIV感染者は数年に1人、10代女性のエイズ患者は過去25年間で1人しかいません。そしてHIV感染者はイギリスやオーストラリアなど法規制の厳しい宗教国のほうが大幅に増加しています。
〇三十九番(中嶋義雄君) 知事は、今定例会の所信表明におきまして、エイズ問題に触れられました。
 かつて清水幾太郎氏は、古来からの天譴思想を紹介し、日本人にとって地震は世の混乱を正す天の譴責であったと書いたことがございます。それに倣っていえば、エイズこそまさに天譴であるのかもしれません。
 それはともかく、近年、エイズへの関心が低下しておりますが、知事が指摘するとおり、事態は深刻でございます。献血からエイズ感染が発見される割合は依然として高く、また、先進国の中でエイズ感染者の増加率が上昇している国は日本のみでございます。
 こうした指摘を通して、長年、エイズ問題の深刻さを訴え、ボランティアで無料相談やエイズ検査を行ってきたのが、赤枝六本木診療所の赤枝恒雄医師でございます。マスコミ等でも紹介され、ご存じの方も多いかもしれませんが、昨年、公明党の女性局が同医師を訪問し、私も二十一日の日曜日に訪ねてまいりました。赤枝医師から聞かされたエイズ問題の実態には、身の毛のよだつ思いがいたします。
 同医師によりますと、二十五歳以上のエイズ感染者はほとんどが男性であるのに対し、二十歳から二十四歳までは約六〇%が女性であり、十代ではそれが約七〇%に上るといいます。しかも、十代の女性の感染者の多くは中学生や高校生であり、いわゆる援助交際という名の売春行為でエイズに感染し、親に相談するわけにもいかず、したがって公的な助成等は一切受けられません。
(2003 東京都議会第3回定例会会議録)
 2010年5月18日、東京都議会の総務委員会で東京都青少年健全育成条例改正案に対する参考人意見聴取が行われ、規制派と反対派それぞれ2名づつ参考人が発言しました。規制に賛成する参考人のひとりとして登場した赤枝医師はいつもの調子で、もともと18歳以上だけしか購入できないように区分陳列されているアダルトビデオに関する独自見解や、未成年の性行為についての独自見解など、持論を披露していたそうです。しかし成人指定商品の区分陳列については、現行の青少年条例に基づいて各販売店への調査・指導が毎月行われています。条例改正案に対する意見聴取の場で今回の改正案の内容とはかけ離れた話ばかりしていた赤枝医師がどういう意図で規制に賛成しているのかよくわからないという感想を持った人も多いようです。
漫画の影響によって「女の子を選ぶ基準がブスでもいいからやらせてくれる子」「日本はレイプ地獄」となったと主張し、都条例改正案を正当化している赤枝恒雄氏は、マスコミに度々登場しているので知っている方も多いかと思います。この産婦人科医師は昔から「10代の中絶・性病を撲滅する為に漫画の性描写を法規制するべきだ」という自論を唱えており、規制派の政治家・官僚・マスコミ関係者らに重宝がられています。
(2010.5 東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト)
参考人として出席した産婦人科医は、性病に感染する小中学生が急激に増えていることを挙げて、「子供らはだいたい漫画を持っている。もう待てないほど急ぐ問題。子供を守るための指針がほしい」と話し、条例の改正を求めました。
(2010.5.18 テレ朝news)(sd-m.jp)
 同じく賛成派で六本木で産婦人科医院を開業する赤枝恒雄医師は「反対派は現実を見ていない。子供たちはセックスを『面白い、楽しい』という情報だけで行っている」と、現場の目線から報告。
 その上で、子供の性病や中絶の多さを示し、「アダルトビデオの婦女暴行ものは女性も喜ぶという内容で、成人向け漫画も性行為をオーバーに伝えている。メディアリテラシーを育てるために規制はいけないとはとんでもない」と改正案の早期施行を訴えた。
(2010.5.19 産経新聞)
山口拓(民主)理事質疑
 山口:厚労省の定点観測によると性感染症は増えていないが
 赤枝:インフルエンザと違って子どもが親に保険証を借りられないため病院に行けない。したがって定点観測では議論できない。我々がやっている無料検査でやっとデータが出る。
(2010.05.19 草冠に西 都議会総務委員会傍聴記 参考人赤枝恒雄氏の意見聴取)
…………
【追記】
 2007年から港区が行っている事業により、港区内の拠点病院では誰でも匿名・無料で性病検査が受けられるので、赤枝医師の「〔保険証やお金の問題で〕定点観測になっているきちんとした病院に、子どもたちがやっぱり行けない」発言は、港区の実態とは違います。
 赤枝六本木診療所赤枝議員のHPでは、この港区の無料性病検査事業(AIチェック)を赤枝医師の功績としています。
 ところが赤枝医師はなぜかAIチェック開始後も、取材が来るときだけ不定期に行う赤枝医師の無料検査しか港区に存在しないように思わせる発言を続けているため、赤枝医師が出演したテレビ番組では港区の無料性病検査事業は紹介されません。
…………

 厚生労働省の統計では2003年以降は未成年の性病は減っていて、東京都内の保健所などで全年齢合計年間1.5万人(男性9千人・女性6千人)が受けている匿名・無料の性病検査でも女性の陽性率は減少しています。だから赤枝参考人は発言後の質疑でも都議から独自見解の信憑性について指摘されたのですが、テレビ朝日と産経新聞はなぜか赤枝医師の独自見解をそのまま報道しています。どこで検査を受けたとしても抗生物質による性感染症治療薬の購入には医師の処方箋が必要で、赤枝説は不自然です。
 赤枝医師はどこで発言するときも独自見解による数値を多用しますが、厚生労働省や自治体保健課が集計した統計値はほとんど引用しません。つまり昔から自民・公明は青少年規制に都合のいい都市伝説を議会に持ち込む道具として、厳罰論者の赤枝医師を利用しているのでしょう。
 赤枝医師の持論である性交同意年齢引き上げ・未成年性交罰則化は、現実には性交した少女の負担を増やすだけで青少年のためにならないので、赤枝と同じ立場の医師からも過去に何度も目の前で反論されていますが、赤枝医師は他人の話には耳を貸さずどんどん極端な厳罰論者になっています。もしかすると赤枝医師は、「エイズは天罰」という宗教的発言をした議員と同じような信念を持っているのかもしれません。

・関連
→ 宗教右翼を煽動したジェリー・ファウエルの残した妄言
→ 赤枝医師の発言の信憑性
→ TVタックルで性感染症自己責任論
→ 条例改正案を読まずに過剰規制を容認するのは危険
→ 不明確な基準で一般人を摘発する表現規制条例
→ 青少年のセックスは法律で禁止しても減らない


2010.05.22 Saturday

2009年のHIV検査件数が減少、新規HIV感染者報告数も減少

 厚生労働省のエイズ動向委員会(委員長・岩本愛吉東京大教授)は12日、国内で2009年に新たに報告されたエイズウイルス(HIV)感染者は1008人、エイズ患者は420人で、計1428人との速報値を発表した。08年の確定値(1545人)比で8%減。03年以降、過去最多を更新し続けていたが、7年ぶりに減少した。
 ただ感染の有無を調べる抗体検査件数は08年から約15%減少しており、これが影響したとみられる。新型インフルエンザ流行でHIVへの関心が薄れたり、啓発不足になっている可能性もあり、厚労省の担当者は「危機感を持っている」と話した。
 感染者・患者の94%は男性。感染経路では同性間の性的接触が62%、異性間が24%だった。ほとんどの年代で感染者は前年より減ったが、30代だけが4%増の581人で、人数も全年代を通じて最も多かった。
(2010.02.12 共同通信)
 〔HIV検査件数の〕減少の理由としては、新型インフルエンザのほか、公共広告機構(現ACジャパン)によるPRが今年6月末で終了した影響も考えられるという。同委員会委員長の岩本愛吉東京大教授(感染症学)は「深刻な事態。12月1日の世界エイズデーのイベントなどを通じ、検査の重要性を周知したい」と話している。
(2009.11.24 読売新聞)
 厚生労働省エイズ動向委員会から2009年の国内の新規HIV感染者・エイズ患者報告数の速報値、東京都福祉保健局から都内の新規HIV感染者・エイズ患者年間報告数が公開されています。それぞれ詳細な年報は例年6〜7月に公開されます。
……
【追記】厚生労働省から2009年の確定値が発表されました。
 厚生労働省のエイズ動向委員会の岩本愛吉委員長(東大医科学研究所教授)は5月27日、2009年のエイズ発生動向の概要について発表した。09年の年間報告(確定値)によると、新規HIV感染者は過去最高だった08年の1126件から105件減の1021件で、新規AIDS患者は過去最高だった08年と同数の431件だった。
 保健所などにおけるHIV抗体検査件数は15万252件で、前年比2万6904件減だった。岩本委員長は、新規HIV感染者の報告数と検査件数の減少について、「一見、同期しているように見えるが、それが本当に同期しているのか、検査が減ったから感染者の報告も減ったのかということに関して、まだ結論付けるのは早いというのが動向委員会の委員の考えだ」と述べた。
 また、新規のHIV感染者とAIDS患者に占めるAIDS患者の割合が、08年の27.7%から09年は29.7%に増加している点について岩本委員長は、「エイズを発症して感染が見つかる方の数が増えている。まず、検査機会などを利用して早めに治療してもらうことが非常に大事と思っている」と強調。
 さらに、地域ブロック別の患者の新規報告数で、「東京を中心とした関東ブロック等では、エイズ報告数は減少あるいは頭打ちの傾向を示しているのに、近畿、九州でエイズとして発見される方々が増えていることは非常に問題が大きい」と述べ、検査機会が十分なのかなど原因を精査する必要性を指摘した。
(2010.05.27 キャリアブレイン)
……

 厚生労働省エイズ動向委員会の発表からは、
  • 新規HIV感染報告数が前年比9%減少(2007年と同程度で過去3番目に高い水準)。
  • 全国保健所等での無料HIV検査件数が前年比16%減少(2007年以前の水準)。相談件数も前年比16%減少。
  • 献血件数は前年比4%増加しているが、献血者中のHIV陽性件数が前年比4%減少した(献血10万件当たりの陽性件数は1.9件で、前年比8%減少)。
  • 検査件数減少により、エイズ発症まで感染に気付かない割合が増加。年齢別では、30代および30歳以上の新規エイズ患者数が増加。
 東京都福祉保健局の発表からは、
  • 都内では新規HIV感染報告数は前年比17%減少したが(2006年と同程度)、新規エイズ患者数は前年比4%増加。
  • 都内では新規HIV感染者数・新規エイズ患者数とも40歳以上が増加し、40歳未満が減少している。
  • 無料HIV検査件数は都内保健所では前年比10%減少、南新宿検査・相談室では前年比6%減少。相談件数も前年比12%減少。
ということがわかります。
前年と比較して、検査件数が約27,000件、相談件数が37,000件減少した。その一因として、新型インフルエンザの影響を受けた可能性は否定できない。
(2010.02.12 エイズ動向委員会 委員長コメント)
 同性間性的接触による報告数は、増加傾向であったが、平成21年は前年と比べ80件減少した。
 異性間性的接触による報告数は、100件弱で推移している。
(2010.03 東京都福祉保健局健康安全部感染症対策課エイズ対策係)
 実際には病院などでHIV検査を受けている人のほうが多いとはいえ、保健所等で自発的に無料HIV検査・性病検査を受ける人のほうがHIV陽性率が高いので、保健所等でのHIV検査件数の減少と連動して新規HIV感染報告数が減るのは良くない傾向です。地域差はありますが、全国的にこの傾向が続くとエイズ発症まで感染に気付かない割合が高くなり、感染拡大につながります。
 たとえば東京都エイズ専門家会議の報告では、保健所等での無料HIV検査の受検者の約8割が40歳未満とされていました。ところが2009年の都内の新規エイズ患者は約6割が40歳以上です。
 昨年全国的に保健所等でのHIV検査件数や電話相談件数が減少したのは、テレビCMが終了したことと、新型インフルエンザ対策の影響で、無料HIV検査の日程や啓発が減ったことが原因とされています。たとえば毎年12月は世界エイズデーのキャンペーンで検査件数が多いのですが、2009年は例年より減少しています。
 そして昨年のHIV感染報告数が減った影響で今年はニュースなどでHIVについて扱われる機会も少なくなっているようです。しかし、これまでHIV感染者数増加というニュースはメディアでは単に不安を煽る若者叩きネタや感染者差別の道具として使われることも多かったので、ただメディアに露出すればHIV検査件数が増えるとは思えません。
 地方の保健所では、定期的な無料HIV検査を平日月1〜2回、数時間しか行わない傾向があるので、数年前まで年間HIV検査件数は横ばいの地域が多かったのですが、週末などにも臨時無料HIV検査・性病検査を不定期に行うことで、2008年の保健所等でのHIV検査件数は2002年の約3倍に増加していました。2003年から2008年まで日本でHIV感染報告が増え続けていたのは、全国の保健所が無料HIV検査・性病検査の日程を増やした効果も大きかったはずです。
 全国で唯一毎日無料HIV検査を行っているため検査件数の増減が少ない東京都南新宿検査・相談室でも、昨年の検査件数は過去6年間で最も少なかったようですが、HIV検査件数を増やすにはやはりまた全国的に無料HIV検査の日程や啓発を増やしていく必要があるでしょう。
 ちなみに厚生労働省とエイズ予防財団では2007年から5年間でHIV抗体検査受検者を2倍にするという目標で研究事業を行っているらしいのですが、2008年に大阪で実験的に啓発広告キャンペーンを行った際にはせっかく検査希望者が増えたのに全員が無料HIV検査が受けられる環境を用意してなかったそうです。
 また、本研究のキャンペーンに伴って、受検者数の大きな増加が認められたために、大阪府内等で、検査体制のキャパシティを超える状況が生じた。
(エイズ予防のための戦略研究 _ 研究課題2 平成20年度報告書)

 さて、日本赤十字は昨年まで献血者のHIV陽性率の微増の要因を献血者だけのせいにした「検査目的で献血する人が増加」というコメント発表を毎年続けていて、2005年の献血者のHIV陽性率が減少したときは「検査目的の献血が減少」と発表していたようですが、2009年の献血者のHIV陽性率が微減したことについてはなにもコメント発表しないようです。日本赤十字の統計によれば、梅毒などによる献血不合格数と比較してもHIVが理由の献血不合格数は極端に少なく、HIV以外の原因を含めた検査不合格率も減少が続いているので、事前の問診で嘘をついて故意に検査目的で献血する人が現実に問題になるほど多かったとは思えません。
 もともと日本の献血者のHIV陽性率は、妊婦のHIV陽性率の半分以下で、それほど高くありませんでした。都内保健所の統計を見ても、保健所等で自発的に無料HIV検査を受ける層のHIV陽性率は、献血者全体のHIV陽性率の100倍以上も高率です。
 これまで献血常連者からHIV陽性が出ていたこともわかっているのに、日本赤十字が「感染の疑いがある方は、絶対に献血しないで下さい」という発表しか行ってなかったのは的外れです。昔から指摘されているように、日本赤十字が献血前の問診で、献血者がコンドームを使用しているか確認し、献血者にコンドームの必要性を周知すれば、HIVなど性感染症による献血不合格率はさらに減らすことができるはずです。

・関連
→ 日本赤十字社は献血の問診項目を変更するべきだ
→ 「HIV検査目的の献血」は本当に多いのか
→ 日本で新規エイズ患者数が減らない理由

2010.03.28 Sunday

条例改正案を読まずに過剰規制を容認するのは危険

 いまネット以外でも新聞やラジオなど各方面で話題になっている「東京都青少年の健全な育成に関する条例」改正案は、これまで青少年条例に含まれていた図書販売規制に「(漫画など想像上の)非実在青少年を性的に描写した図書の販売・閲覧規制および不健全図書指定」「(実写の)児童ポルノ単純所持禁止」「18歳未満の都民への携帯フィルタリング強制化と、フィルタリング内容への東京都の介入」などを加えるもので、ほとんどの条文に問題があります。
 さまざまな人が改正案への反対意見を都議に届けてくれたおかげでいったん成立は見送られ継続審議になりました。しかし、6月の定例議会でにまた審議されるので、廃案になるかどうかはまだわかりません。一部を修正した程度で可決されてしまう可能性もあります。
 改正案の具体的な条文は東京都議会図書館では公開されていますが、東京都の公式サイト上ではいまだに公開されていないので、一般の方が複写したものを公開してくれています。これまでの東京都青少年条例との差分は、ブログ「弁護士山口貴士大いに語る」などで整理されています。また、都民のパブリックコメントを無視した今回の改正騒動の概要は、GIGAZINEのまとめ記事「東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト」などで詳しく説明されています。
 条例改正案を作成した東京都青少年・治安対策本部は、出版業界団体や有名漫画家や大学やPTAなどさまざまな団体から寄せられた今回の条例改正案への反対意見に反論する見解を、議会での決議前日の3月18日に東京都の公式サイトに発表しました。これは東京都青少年・治安対策本部が、規制基準があいまいな条文自体を修正する意志がないこと、成立するまで改正案そのものを東京都の公式サイトには公開する意志がなかったことを示しています。

 このような条例改正案が話題になると、いまだに「子供の手の届くところにエロがあるのはおかしい」「ゾーニングを徹底するべきだ」という発想で過剰規制を容認してしまう人も多いようですが、東京都青少年条例ではすでに2001年からエロ本の区分陳列が義務づけられているうえに、2004年からはヌードグラビア等を含む雑誌は中が見えないようにシールで止めた状態で出荷されています。つまりエロ本の陳列方法はすでに酒やタバコと同等の扱いになっているので「店頭で子供が間違って買ってしまう」という言説には根拠がありません。
 この青少年条例によって東京都は1964年から毎月数冊の「不健全図書」を指定しています。他県の青少年条例が「有害図書」を指定するのと似ていますが、東京都から不健全図書に指定された図書はほとんど日本全国で流通・販売が自粛されてしまい、雑誌では指定された号だけでなく後にまで影響が及ぶため、東京都の不健全指定は青少年への販売規制ではなく事実上の販売禁止に近い効果があることが以前から問題視されています。もともと成人指定マーク付きで販売されている図書やアダルトビデオを、東京都がさらに不健全図書に指定した事例も多く、東京都は意図的に販売自粛を求めているとも考えられます。
 性的な内容以外では、2001年から東京都青少年条例の不健全図書の指定基準に「著しく自殺若しくは犯罪を誘発するもの」という不明確な語句が加えられています。この不明確な条文が加わったことで、一般的な犯罪報道とあまり変わらない内容の本でも、東京都は安易に不健全図書に指定するようになっていきました。

 さて、2010年の条例改正案騒動のなかで最も話題になったのが、目的が不明確な「非実在青少年」規制の部分ですが、これまでの東京都青少年条例で想像上の人物を描いた漫画が規制されてなかったわけではなく、少女漫画・BL雑誌なども不健全図書に数多く指定されていました。
 東京都青少年・治安対策本部はこの改正案について、未成年に対する性暴力が直接的に描かれた過激な図書だけが不健全指定されるかのように説明しています。しかしそんな過激な図書は現在の青少年条例の枠内で不健全指定できるので条例を改正する必要はありません。では東京都青少年・治安対策本部はなぜ新たに「非実在青少年」を条文に含めようとしているのでしょうか。
〔2009年11月19日の東京都青少年問題協議会の〕拡大専門部会の終了後、青少年課長による記者レクが行われた。その際、問題視している出版物の例として、十数点が提示された。ジュニアアイドル誌は、『Namiのキモチ 浅岡なみセカンド写真集』『虹のしずく 真野しずくセカンド写真集』(いずれも心交社発売)、ゲームソフトは『幼辱〜天使たちの檻〜』(WestVision)、「児童を性の対象にするマンガ」は、『背徳恋愛6』『危険恋愛H45』『レイプvol.1』(以上、松文館)、『奥サマは小学生』(秋田書店)、『碧の季節』『08美少女同人誌徹底攻略』(以上、モエールパブリッシング)、青少協用語の「ラブコミック」(一般にはティーンズラブ)は、『レンアイ至上主義』『僕は妹に恋をする』(いずれも小学館)だ。このうち、実際に条例上の「不健全」図書に指定されているのは『レイプ』のみになる。
(月刊『創』2010年1月号 青少年条例と児童ポルノ法改定による表現規制を考える)
 11月に東京都青少年・治安対策本部が不健全指定すべき例として提示した出版物は、性行為を描いていない漫画や、画面に下半身や裸を描いていない漫画や、性的行為を撮影していないアイドル写真集などを含んでいます。このように性行為を画面に描いていない漫画を不健全図書に指定すべき例としながら、石原慎太郎の「完全な遊戯」のような少女を強姦する場面を文章で描写した小説は不健全指定しないという判断は、公正といえるのでしょうか。
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【追記】現行の条例でこれらの図書が不健全指定できないわけではなく、理由をこじつければ東京都青少年・治安対策本部はどんな図書でも不健全指定できます。しかし、一般的な図書と比べて過激な表現でないものを指定すると、聴き取り調査や審議会でも疑問点が指摘され議事録に残ります。だから東京都は過激でない図書を何冊も不健全指定する根拠を条文に含めたいのでしょう。
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【追記】東京都の意向だけでどんな書籍でも不健全図書にできるとは限らないらしいです。
mangaronsoh: 東京都では審議会にて諮問する図書は事前に「諮問図書に関する打合せ会」にて出版・書店・コンビニ団体の代表と協議される。これは出版・書店が多数で構成されている。 #hijitsuzai
mangaronsoh: 本年1月の打ち合わせ会においては反対多数で諮問予定のうち一冊は取り下げとなっている。詳しくは情報公開請求なりなんなりで資料を確認してくれ。 #hijitsuzai
mangaronsoh: つまり、「職員が選んできた「不健全図書候補」は、やっぱりほぼ100%の確率で不健全図書に指定される」とは限らない。そもそも、ここ最近は都の側も空気を読んで反対されそうなのは出さない。 #hijitsuzai
(2010.04.08 昼間たかしTwitter)
 また、東京都では審議会に諮る前に「諮問図書に関する打合わせ会」が開かれる。これは条例制定時の、自主規制の尊重など各種慎重論などを参考に、自主規制を行っている団体があるときは、それらの意見を聞かなければならない(第15条2)としているからで、その場の意見がかなり審議会に反映しているという。
 この会には、出倫協傘下の4団体(書店業は東京組合)から委員および事務局が参加し意見交換を行っている。他に、首都圏新聞即売委員会、東京都古書籍商業協同組合、東京都貸本組合連合会などの自主規制団体も参加(02年7月〜出版倫理懇話会、日本フランチャイズチェーン協会も加わる)。
(橋本健午 1998.01 日本出版学会編『布川角左衛門事典』日本エディタースクール出版部)
ところが、12月に行われた不健全図書指定の過程で、再びおかしなことが発覚した。
都が「出版業界団体との打合会」に提出した諮問候補リストのうちの1冊が、最終的に告示された不健全図書のリストから消えてしまったというのだ。一体なにが起きたのか。
問題の一冊は打合会の全委員に反対されたが、都はそのまま審議会に諮問した。しかし、審議会でも反対され、結局リストから外されたというのが真相のようである。
(2002.02 宝島社)
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 東京都青少年条例の条文では「青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」を不健全図書としていますが、3月18日の都議会総務委員会答弁で浅川東京都青少年・治安対策本部参事は「青少年の健全な成長を阻害する」という条文に科学的根拠がないことを認め、改正案に反対意見を寄せた有名漫画家の作品、永井豪「ハレンチ学園」や竹宮恵子「風と木の詩」については規制しない方針を示しました。しかし、11月に東京都青少年課長が不健全指定すべき例として提示した性行為を描いていない漫画と「ハレンチ学園」「風と木の詩」の表現には明確な差はありません。
 これでは、漫画でも実写でも未成年の表現が規制される基準がまったくわかりません。過去のテレビドラマや一般映画の名作とされる作品と比較しても判断できません。改正案の条文には明確な規定も科学的根拠もないので、東京都担当者や審議会の恣意的な判断だけで区分されることになってしまいます。
 ゲームのデザイナーやシナリオライターで作る「コンテンツ文化研究会」は、早くから条例改正問題に取り組んできた。杉野直也代表は非実在青少年の基準があいまいだとし、「年齢がない場合、背景や音声などから類推するのは無理がある。絵柄によっても左右される」と指摘する。「児童ポルノの規制はもちろん必要だ。だが、不明確な基準では、芸術などに大きな影響を与える」と話している。
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 作者だけでなく出版社からも疑問の声が上がっている。日本書籍出版協会と日本雑誌協会が15日に都議会最大会派の民主党に提出した意見書では「青少年と性をテーマとする作品では性描写は避けて通れない。いかに健全な表現であろうと恣意(しい)的に不健全と判断される恐れがある」と批判した。
 園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法、情報法)は非実在青少年規制に関し、「改正案は『みだりに』などの表現で規制対象を限定したというかもしれない。しかし、漫画のような創作物での芸術的な表現はそもそもデフォルメされるものだ。条文は具体的な禁止対象がはっきりせず、違憲性が問題になり得るほど過度にあいまいだ」と指摘する。単純所持規制については「現行の児童ポルノ禁止法の定義にあいまいな部分が残る以上、過度の規制になる。法の見直しが先決であり、それを飛ばして条例で規制することは本末転倒だ」と批判。その上で「出版社が集中する東京都の規制強化の影響は、他の道府県にすぐに及ぶ。慎重な論議が必要だ」と話した。
 これに対して都青少年課は「現行でも不健全図書指定の対象の8割から9割は漫画だ。性的感情を刺激しないが、強姦や獣姦、何人もの女性への乱暴行為を賛美するといった反社会的な行為は、現在の基準では指定が難しい。同性愛だからといってただちに反社会的となるわけではない」と説明。単純所持規制についても「罰則はなく、児童ポルノを根絶しようという社会機運を高めるためのあくまで理念規定だ。国に先んじたわけではない」と話している。
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 改正案に反対を訴えている山口貴士弁護士は、「改正案では何をもって単純所持というかの基準が不明確であり、しかも児童ポルノ禁止法にさえない単純所持を禁止することは、地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができるとする憲法94条に反する」としている。
(2010.03.18 毎日新聞)
 ネットでは、東京都青少年健全育成条例改正案に対し、さまざまな疑問が寄せられている。担当である東京都青少年・治安対策本部青少年課に聞いた。
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 ──判断は誰がするのか
 「『不健全図書』指定を行ってきた第3者機関『青少年健全育成審議会』で判断される。審議会は、議員、PTA、出版倫理協議会、警視庁、都などの委員で構成される」
 ──現在、一般に流通している作品も対象となるのではと懸念する漫画家の声があるが、実際はどのような作品が、どの程度、規制されるか
 「表現の激しさよりも、設定を重視する。通常のストーリーで必要な表現として描かれた性行為ではなく、強姦や近親者との性行為を肯定的に描くなど青少年の感性がゆがむような表現が規制対象となる。現在も月3〜4冊が『不健全図書』に指定されているが、極端に増えることはない」
 ──「非実在青少年」の作品に小説が含まれない理由は
 「文章による表現は受け手の能力を要するが、漫画やアニメは視覚的に年齢問わず、認識してしまう。小説に比べ、知識のない子供が影響を受けやすい」
(2010.03.18 産経新聞)
 東京都が指定する不健全図書の数が月3〜4冊というのは慣例で、条例で数が決まっているわけではありません。これは東京都担当者が審議会に持ち込む図書数がほぼ一定で、議論があっても結果として、審査された図書はほとんど全部が不健全図書に指定されているのが原因です。もし実際に東京都担当者が審議会に毎月数十冊以上の図書を持ち込んだ場合、審議会で一部しか不健全指定されなくなったり、流通・販売の自粛があまり実行されなくなる可能性があるから、上から検閲の要望があった図書を狙い撃ちで販売自粛させられるように担当者が慣例に従っているだけかもしれません。
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【追記】不健全指定に関連した裁判で東京都が示した見解によると「不健全図書類等の指定をするときには、審議会の意見を聴かなければならないと定めているものの、これに拘束されるとは定めていない」ということで、審議会は飾りらしいです。
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 未成年者の強姦や近親者との性行為などは世界的名作とされる手塚治虫作品でもたびたび描かれていますが、たとえば角川書店から再発された「火の鳥 望郷編」では出版社が人肉食や近親相姦などのエピソードをまるごと削除していて、他社の再発版とはストーリーが大幅に異なります。このような過剰な自主規制は必要とは思えません。
 前回の東京都青少年健全育成条例の「改定」は2004年のことでした。実は、2004年の条例改定後、青少年条例の担当部局が従来の生活文化局から、新設された青少年・治安対策本部に移管されています。青少年問題の取り組みが福祉的対応から取締りを基本にした治安問題として扱われるようになりました。そうです、不健全図書制度は、このときに、青少年への福祉的な配慮を前提とした制度から、「治安を乱すものへの取締まり」という観点から行われるようになったのです。青少年・治安対策本部および本部内の青少年課には、警察庁から出向した職員が存在します。彼らが、今回の「改正」案作成の原動力となっています。
(2010.03 弁護士山口貴士大いに語る)

 18歳未満向けの携帯フィルタリング機能は、すでに国の青少年ネット規制法で親が許可しなければ解除できない仕様になっていますが、今回の青少年条例改正案では、解除理由などの事項を記載した書面を親が携帯電話会社に提出しなければ解除できないようにする条文があり、東京都は携帯電話会社のフィルタリング内容や利用状況などについて調査や勧告ができることになっています。
 各携帯電話会社のフィルタリング機能は、利用者の成長段階に応じて保護者が段階的に選択できるようになっています。しかし東京都は18歳未満の利用者に対して一律にフィルタリング設定を解除させないことを想定しているようです。現実には携帯フィルタリング設定の対象はエロサイトだけでないので、成長段階に応じて解除しなければ学校の授業に関連した内容も閲覧できない場合もあり、青少年が学習機会を奪われることになります。
 そもそもこの青少年条例改正案で示されている、18歳未満の青少年を不健全なものから遮断すれば青少年が健全に育成できるという考え方は正しくありません。現代社会の中で育つ青少年は、段階的にリテラシーを学んでいくほうが現実的です。成人するまで不健全なものから遮断して育てられた人間の中にも非人道的な性犯罪者が多いことは、世界各地で大規模なカトリック聖職者による児童への性的虐待が問題になっていることからもわかるでしょう。
 今回の青少年条例改正案には、児童ポルノ単純所持規制に言及した条文もあります。これは現行の児童ポルノ法で販売・配布が禁止されている18歳未満の性的な画像に関する規制で、非実在青少年の規制とは異なります。
 しかし現行の児童ポルノ法では、自分の子供の記念写真や芸術作品などを除外する規定はないので、単純所持禁止を児童ポルノ法と切り離して青少年条例で定めてしまうと、規制の目的が不明確になり冤罪の危険性がさらに高くなってしまいます。日本弁護士連合会も児童ポルノ単純所持犯罪化には反対しています。
 また、実際に児童ポルノ単純所持規制や児童ポルノのブロッキングを行っている国のほうが、日本より児童ポルノ発信数がかなり多いという指摘もあり、このような政策は児童ポルノ対策として効果的とはいえません。
 大阪府など、東京都以外でも同様の問題がある青少年条例改正案をつくる動きは出ているようです。日本中の多くの人の力で条例改正案の内容をよく確認して、役に立たない過剰規制を各地の議会が容認しないようにしてほしいものです。

・関連
→ 不明確な基準で一般人を摘発する表現規制条例
→ 騒動を利用して、無関係な表現まで検閲しようとする団体
→ ネット検閲が日本にも導入されるおそれ
→ いつのまにか過剰になる表現規制
→ 通報されているものはほとんど児童ポルノではない

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