2010.05.22 Saturday

2009年のHIV検査件数が減少、新規HIV感染者報告数も減少

 厚生労働省のエイズ動向委員会(委員長・岩本愛吉東京大教授)は12日、国内で2009年に新たに報告されたエイズウイルス(HIV)感染者は1008人、エイズ患者は420人で、計1428人との速報値を発表した。08年の確定値(1545人)比で8%減。03年以降、過去最多を更新し続けていたが、7年ぶりに減少した。
 ただ感染の有無を調べる抗体検査件数は08年から約15%減少しており、これが影響したとみられる。新型インフルエンザ流行でHIVへの関心が薄れたり、啓発不足になっている可能性もあり、厚労省の担当者は「危機感を持っている」と話した。
 感染者・患者の94%は男性。感染経路では同性間の性的接触が62%、異性間が24%だった。ほとんどの年代で感染者は前年より減ったが、30代だけが4%増の581人で、人数も全年代を通じて最も多かった。
(2010.02.12 共同通信)
 〔HIV検査件数の〕減少の理由としては、新型インフルエンザのほか、公共広告機構(現ACジャパン)によるPRが今年6月末で終了した影響も考えられるという。同委員会委員長の岩本愛吉東京大教授(感染症学)は「深刻な事態。12月1日の世界エイズデーのイベントなどを通じ、検査の重要性を周知したい」と話している。
(2009.11.24 読売新聞)
 厚生労働省エイズ動向委員会から2009年の国内の新規HIV感染者・エイズ患者報告数の速報値、東京都福祉保健局から都内の新規HIV感染者・エイズ患者年間報告数が公開されています。それぞれ詳細な年報は例年6〜7月に公開されます。
……
【追記】厚生労働省から2009年の確定値が発表されました。
 厚生労働省のエイズ動向委員会の岩本愛吉委員長(東大医科学研究所教授)は5月27日、2009年のエイズ発生動向の概要について発表した。09年の年間報告(確定値)によると、新規HIV感染者は過去最高だった08年の1126件から105件減の1021件で、新規AIDS患者は過去最高だった08年と同数の431件だった。
 保健所などにおけるHIV抗体検査件数は15万252件で、前年比2万6904件減だった。岩本委員長は、新規HIV感染者の報告数と検査件数の減少について、「一見、同期しているように見えるが、それが本当に同期しているのか、検査が減ったから感染者の報告も減ったのかということに関して、まだ結論付けるのは早いというのが動向委員会の委員の考えだ」と述べた。
 また、新規のHIV感染者とAIDS患者に占めるAIDS患者の割合が、08年の27.7%から09年は29.7%に増加している点について岩本委員長は、「エイズを発症して感染が見つかる方の数が増えている。まず、検査機会などを利用して早めに治療してもらうことが非常に大事と思っている」と強調。
 さらに、地域ブロック別の患者の新規報告数で、「東京を中心とした関東ブロック等では、エイズ報告数は減少あるいは頭打ちの傾向を示しているのに、近畿、九州でエイズとして発見される方々が増えていることは非常に問題が大きい」と述べ、検査機会が十分なのかなど原因を精査する必要性を指摘した。
(2010.05.27 キャリアブレイン)
……

 厚生労働省エイズ動向委員会の発表からは、
  • 新規HIV感染報告数が前年比9%減少(2007年と同程度で過去3番目に高い水準)。
  • 全国保健所等での無料HIV検査件数が前年比16%減少(2007年以前の水準)。相談件数も前年比16%減少。
  • 献血件数は前年比4%増加しているが、献血者中のHIV陽性件数が前年比4%減少した(献血10万件当たりの陽性件数は1.9件で、前年比8%減少)。
  • 検査件数減少により、エイズ発症まで感染に気付かない割合が増加。年齢別では、30代および30歳以上の新規エイズ患者数が増加。
 東京都福祉保健局の発表からは、
  • 都内では新規HIV感染報告数は前年比17%減少したが(2006年と同程度)、新規エイズ患者数は前年比4%増加。
  • 都内では新規HIV感染者数・新規エイズ患者数とも40歳以上が増加し、40歳未満が減少している。
  • 無料HIV検査件数は都内保健所では前年比10%減少、南新宿検査・相談室では前年比6%減少。相談件数も前年比12%減少。
ということがわかります。
前年と比較して、検査件数が約27,000件、相談件数が37,000件減少した。その一因として、新型インフルエンザの影響を受けた可能性は否定できない。
(2010.02.12 エイズ動向委員会 委員長コメント)
 同性間性的接触による報告数は、増加傾向であったが、平成21年は前年と比べ80件減少した。
 異性間性的接触による報告数は、100件弱で推移している。
(2010.03 東京都福祉保健局健康安全部感染症対策課エイズ対策係)
 実際には病院などでHIV検査を受けている人のほうが多いとはいえ、保健所等で自発的に無料HIV検査・性病検査を受ける人のほうがHIV陽性率が高いので、保健所等でのHIV検査件数の減少と連動して新規HIV感染報告数が減るのは良くない傾向です。地域差はありますが、全国的にこの傾向が続くとエイズ発症まで感染に気付かない割合が高くなり、感染拡大につながります。
 たとえば東京都エイズ専門家会議の報告では、保健所等での無料HIV検査の受検者の約8割が40歳未満とされていました。ところが2009年の都内の新規エイズ患者は約6割が40歳以上です。
 昨年全国的に保健所等でのHIV検査件数や電話相談件数が減少したのは、テレビCMが終了したことと、新型インフルエンザ対策の影響で、無料HIV検査の日程や啓発が減ったことが原因とされています。たとえば毎年12月は世界エイズデーのキャンペーンで検査件数が多いのですが、2009年は例年より減少しています。
 そして昨年のHIV感染報告数が減った影響で今年はニュースなどでHIVについて扱われる機会も少なくなっているようです。しかし、これまでHIV感染者数増加というニュースはメディアでは単に不安を煽る若者叩きネタや感染者差別の道具として使われることも多かったので、ただメディアに露出すればHIV検査件数が増えるとは思えません。
 地方の保健所では、定期的な無料HIV検査を平日月1〜2回、数時間しか行わない傾向があるので、数年前まで年間HIV検査件数は横ばいの地域が多かったのですが、週末などにも臨時無料HIV検査・性病検査を不定期に行うことで、2008年の保健所等でのHIV検査件数は2002年の約3倍に増加していました。2003年から2008年まで日本でHIV感染報告が増え続けていたのは、全国の保健所が無料HIV検査・性病検査の日程を増やした効果も大きかったはずです。
 全国で唯一毎日無料HIV検査を行っているため検査件数の増減が少ない東京都南新宿検査・相談室でも、昨年の検査件数は過去6年間で最も少なかったようですが、HIV検査件数を増やすにはやはりまた全国的に無料HIV検査の日程や啓発を増やしていく必要があるでしょう。
 ちなみに厚生労働省とエイズ予防財団では2007年から5年間でHIV抗体検査受検者を2倍にするという目標で研究事業を行っているらしいのですが、2008年に大阪で実験的に啓発広告キャンペーンを行った際にはせっかく検査希望者が増えたのに全員が無料HIV検査が受けられる環境を用意してなかったそうです。
 また、本研究のキャンペーンに伴って、受検者数の大きな増加が認められたために、大阪府内等で、検査体制のキャパシティを超える状況が生じた。
(エイズ予防のための戦略研究 _ 研究課題2 平成20年度報告書)

 さて、日本赤十字は昨年まで献血者のHIV陽性率の微増の要因を献血者だけのせいにした「検査目的で献血する人が増加」というコメント発表を毎年続けていて、2005年の献血者のHIV陽性率が減少したときは「検査目的の献血が減少」と発表していたようですが、2009年の献血者のHIV陽性率が微減したことについてはなにもコメント発表しないようです。日本赤十字の統計によれば、梅毒などによる献血不合格数と比較してもHIVが理由の献血不合格数は極端に少なく、HIV以外の原因を含めた検査不合格率も減少が続いているので、事前の問診で嘘をついて故意に検査目的で献血する人が現実に問題になるほど多かったとは思えません。
 もともと日本の献血者のHIV陽性率は、妊婦のHIV陽性率の半分以下で、それほど高くありませんでした。都内保健所の統計を見ても、保健所等で自発的に無料HIV検査を受ける層のHIV陽性率は、献血者全体のHIV陽性率の100倍以上も高率です。
 これまで献血常連者からHIV陽性が出ていたこともわかっているのに、日本赤十字が「感染の疑いがある方は、絶対に献血しないで下さい」という発表しか行ってなかったのは的外れです。昔から指摘されているように、日本赤十字が献血前の問診で、献血者がコンドームを使用しているか確認し、献血者にコンドームの必要性を周知すれば、HIVなど性感染症による献血不合格率はさらに減らすことができるはずです。

・関連
→ 日本赤十字社は献血の問診項目を変更するべきだ
→ 「HIV検査目的の献血」は本当に多いのか
→ 日本で新規エイズ患者数が減らない理由

2010.03.28 Sunday

条例改正案を読まずに過剰規制を容認するのは危険

 いまネット以外でも新聞やラジオなど各方面で話題になっている「東京都青少年の健全な育成に関する条例」改正案は、これまで青少年条例に含まれていた図書販売規制に「(漫画など想像上の)非実在青少年を性的に描写した図書の販売・閲覧規制および不健全図書指定」「(実写の)児童ポルノ単純所持禁止」「18歳未満の都民への携帯フィルタリング強制化と、フィルタリング内容への東京都の介入」などを加えるもので、ほとんどの条文に問題があります。
 さまざまな人が改正案への反対意見を都議に届けてくれたおかげでいったん成立は見送られ継続審議になりました。しかし、6月の定例議会でにまた審議されるので、廃案になるかどうかはまだわかりません。一部を修正した程度で可決されてしまう可能性もあります。
 改正案の具体的な条文は東京都議会図書館では公開されていますが、東京都の公式サイト上ではいまだに公開されていないので、一般の方が複写したものを公開してくれています。これまでの東京都青少年条例との差分は、ブログ「弁護士山口貴士大いに語る」などで整理されています。また、都民のパブリックコメントを無視した今回の改正騒動の概要は、GIGAZINEのまとめ記事「東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト」などで詳しく説明されています。
 条例改正案を作成した東京都青少年・治安対策本部は、出版業界団体や有名漫画家や大学やPTAなどさまざまな団体から寄せられた今回の条例改正案への反対意見に反論する見解を、議会での決議前日の3月18日に東京都の公式サイトに発表しました。これは東京都青少年・治安対策本部が、規制基準があいまいな条文自体を修正する意志がないこと、成立するまで改正案そのものを東京都の公式サイトには公開する意志がなかったことを示しています。

 このような条例改正案が話題になると、いまだに「子供の手の届くところにエロがあるのはおかしい」「ゾーニングを徹底するべきだ」という発想で過剰規制を容認してしまう人も多いようですが、東京都青少年条例ではすでに2001年からエロ本の区分陳列が義務づけられているうえに、2004年からはヌードグラビア等を含む雑誌は中が見えないようにシールで止めた状態で出荷されています。つまりエロ本の陳列方法はすでに酒やタバコと同等の扱いになっているので「店頭で子供が間違って買ってしまう」という言説には根拠がありません。
 この青少年条例によって東京都は1964年から毎月数冊の「不健全図書」を指定しています。他県の青少年条例が「有害図書」を指定するのと似ていますが、東京都から不健全図書に指定された図書はほとんど日本全国で流通・販売が自粛されてしまい、雑誌では指定された号だけでなく後にまで影響が及ぶため、東京都の不健全指定は青少年への販売規制ではなく事実上の販売禁止に近い効果があることが以前から問題視されています。もともと成人指定マーク付きで販売されている図書やアダルトビデオを、東京都がさらに不健全図書に指定した事例も多く、東京都は意図的に販売自粛を求めているとも考えられます。
 性的な内容以外では、2001年から東京都青少年条例の不健全図書の指定基準に「著しく自殺若しくは犯罪を誘発するもの」という不明確な語句が加えられています。この不明確な条文が加わったことで、一般的な犯罪報道とあまり変わらない内容の本でも、東京都は安易に不健全図書に指定するようになっていきました。

 さて、2010年の条例改正案騒動のなかで最も話題になったのが、目的が不明確な「非実在青少年」規制の部分ですが、これまでの東京都青少年条例で想像上の人物を描いた漫画が規制されてなかったわけではなく、少女漫画・BL雑誌なども不健全図書に数多く指定されていました。
 東京都青少年・治安対策本部はこの改正案について、未成年に対する性暴力が直接的に描かれた過激な図書だけが不健全指定されるかのように説明しています。しかしそんな過激な図書は現在の青少年条例の枠内で不健全指定できるので条例を改正する必要はありません。では東京都青少年・治安対策本部はなぜ新たに「非実在青少年」を条文に含めようとしているのでしょうか。
〔2009年11月19日の東京都青少年問題協議会の〕拡大専門部会の終了後、青少年課長による記者レクが行われた。その際、問題視している出版物の例として、十数点が提示された。ジュニアアイドル誌は、『Namiのキモチ 浅岡なみセカンド写真集』『虹のしずく 真野しずくセカンド写真集』(いずれも心交社発売)、ゲームソフトは『幼辱〜天使たちの檻〜』(WestVision)、「児童を性の対象にするマンガ」は、『背徳恋愛6』『危険恋愛H45』『レイプvol.1』(以上、松文館)、『奥サマは小学生』(秋田書店)、『碧の季節』『08美少女同人誌徹底攻略』(以上、モエールパブリッシング)、青少協用語の「ラブコミック」(一般にはティーンズラブ)は、『レンアイ至上主義』『僕は妹に恋をする』(いずれも小学館)だ。このうち、実際に条例上の「不健全」図書に指定されているのは『レイプ』のみになる。
(月刊『創』2010年1月号 青少年条例と児童ポルノ法改定による表現規制を考える)
 11月に東京都青少年・治安対策本部が不健全指定すべき例として提示した出版物は、性行為を描いていない漫画や、画面に下半身や裸を描いていない漫画や、性的行為を撮影していないアイドル写真集などを含んでいます。このように性行為を画面に描いていない漫画を不健全図書に指定すべき例としながら、石原慎太郎の「完全な遊戯」のような少女を強姦する場面を文章で描写した小説は不健全指定しないという判断は、公正といえるのでしょうか。
----
【追記】現行の条例でこれらの図書が不健全指定できないわけではなく、理由をこじつければ東京都青少年・治安対策本部はどんな図書でも不健全指定できます。しかし、一般的な図書と比べて過激な表現でないものを指定すると、聴き取り調査や審議会でも疑問点が指摘され議事録に残ります。だから東京都は過激でない図書を何冊も不健全指定する根拠を条文に含めたいのでしょう。
----
【追記】東京都の意向だけでどんな書籍でも不健全図書にできるとは限らないらしいです。
mangaronsoh: 東京都では審議会にて諮問する図書は事前に「諮問図書に関する打合せ会」にて出版・書店・コンビニ団体の代表と協議される。これは出版・書店が多数で構成されている。 #hijitsuzai
mangaronsoh: 本年1月の打ち合わせ会においては反対多数で諮問予定のうち一冊は取り下げとなっている。詳しくは情報公開請求なりなんなりで資料を確認してくれ。 #hijitsuzai
mangaronsoh: つまり、「職員が選んできた「不健全図書候補」は、やっぱりほぼ100%の確率で不健全図書に指定される」とは限らない。そもそも、ここ最近は都の側も空気を読んで反対されそうなのは出さない。 #hijitsuzai
(2010.04.08 昼間たかしTwitter)
 また、東京都では審議会に諮る前に「諮問図書に関する打合わせ会」が開かれる。これは条例制定時の、自主規制の尊重など各種慎重論などを参考に、自主規制を行っている団体があるときは、それらの意見を聞かなければならない(第15条2)としているからで、その場の意見がかなり審議会に反映しているという。
 この会には、出倫協傘下の4団体(書店業は東京組合)から委員および事務局が参加し意見交換を行っている。他に、首都圏新聞即売委員会、東京都古書籍商業協同組合、東京都貸本組合連合会などの自主規制団体も参加(02年7月〜出版倫理懇話会、日本フランチャイズチェーン協会も加わる)。
(橋本健午 1998.01 日本出版学会編『布川角左衛門事典』日本エディタースクール出版部)
ところが、12月に行われた不健全図書指定の過程で、再びおかしなことが発覚した。
都が「出版業界団体との打合会」に提出した諮問候補リストのうちの1冊が、最終的に告示された不健全図書のリストから消えてしまったというのだ。一体なにが起きたのか。
問題の一冊は打合会の全委員に反対されたが、都はそのまま審議会に諮問した。しかし、審議会でも反対され、結局リストから外されたというのが真相のようである。
(2002.02 宝島社)
----

 東京都青少年条例の条文では「青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」を不健全図書としていますが、3月18日の都議会総務委員会答弁で浅川東京都青少年・治安対策本部参事は「青少年の健全な成長を阻害する」という条文に科学的根拠がないことを認め、改正案に反対意見を寄せた有名漫画家の作品、永井豪「ハレンチ学園」や竹宮恵子「風と木の詩」については規制しない方針を示しました。しかし、11月に東京都青少年課長が不健全指定すべき例として提示した性行為を描いていない漫画と「ハレンチ学園」「風と木の詩」の表現には明確な差はありません。
 これでは、漫画でも実写でも未成年の表現が規制される基準がまったくわかりません。過去のテレビドラマや一般映画の名作とされる作品と比較しても判断できません。改正案の条文には明確な規定も科学的根拠もないので、東京都担当者や審議会の恣意的な判断だけで区分されることになってしまいます。
 ゲームのデザイナーやシナリオライターで作る「コンテンツ文化研究会」は、早くから条例改正問題に取り組んできた。杉野直也代表は非実在青少年の基準があいまいだとし、「年齢がない場合、背景や音声などから類推するのは無理がある。絵柄によっても左右される」と指摘する。「児童ポルノの規制はもちろん必要だ。だが、不明確な基準では、芸術などに大きな影響を与える」と話している。
----
 作者だけでなく出版社からも疑問の声が上がっている。日本書籍出版協会と日本雑誌協会が15日に都議会最大会派の民主党に提出した意見書では「青少年と性をテーマとする作品では性描写は避けて通れない。いかに健全な表現であろうと恣意(しい)的に不健全と判断される恐れがある」と批判した。
 園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法、情報法)は非実在青少年規制に関し、「改正案は『みだりに』などの表現で規制対象を限定したというかもしれない。しかし、漫画のような創作物での芸術的な表現はそもそもデフォルメされるものだ。条文は具体的な禁止対象がはっきりせず、違憲性が問題になり得るほど過度にあいまいだ」と指摘する。単純所持規制については「現行の児童ポルノ禁止法の定義にあいまいな部分が残る以上、過度の規制になる。法の見直しが先決であり、それを飛ばして条例で規制することは本末転倒だ」と批判。その上で「出版社が集中する東京都の規制強化の影響は、他の道府県にすぐに及ぶ。慎重な論議が必要だ」と話した。
 これに対して都青少年課は「現行でも不健全図書指定の対象の8割から9割は漫画だ。性的感情を刺激しないが、強姦や獣姦、何人もの女性への乱暴行為を賛美するといった反社会的な行為は、現在の基準では指定が難しい。同性愛だからといってただちに反社会的となるわけではない」と説明。単純所持規制についても「罰則はなく、児童ポルノを根絶しようという社会機運を高めるためのあくまで理念規定だ。国に先んじたわけではない」と話している。
----
 改正案に反対を訴えている山口貴士弁護士は、「改正案では何をもって単純所持というかの基準が不明確であり、しかも児童ポルノ禁止法にさえない単純所持を禁止することは、地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができるとする憲法94条に反する」としている。
(2010.03.18 毎日新聞)
 ネットでは、東京都青少年健全育成条例改正案に対し、さまざまな疑問が寄せられている。担当である東京都青少年・治安対策本部青少年課に聞いた。
----
 ──判断は誰がするのか
 「『不健全図書』指定を行ってきた第3者機関『青少年健全育成審議会』で判断される。審議会は、議員、PTA、出版倫理協議会、警視庁、都などの委員で構成される」
 ──現在、一般に流通している作品も対象となるのではと懸念する漫画家の声があるが、実際はどのような作品が、どの程度、規制されるか
 「表現の激しさよりも、設定を重視する。通常のストーリーで必要な表現として描かれた性行為ではなく、強姦や近親者との性行為を肯定的に描くなど青少年の感性がゆがむような表現が規制対象となる。現在も月3〜4冊が『不健全図書』に指定されているが、極端に増えることはない」
 ──「非実在青少年」の作品に小説が含まれない理由は
 「文章による表現は受け手の能力を要するが、漫画やアニメは視覚的に年齢問わず、認識してしまう。小説に比べ、知識のない子供が影響を受けやすい」
(2010.03.18 産経新聞)
 東京都が指定する不健全図書の数が月3〜4冊というのは慣例で、条例で数が決まっているわけではありません。これは東京都担当者が審議会に持ち込む図書数がほぼ一定で、議論があっても結果として、審査された図書はほとんど全部が不健全図書に指定されているのが原因です。もし実際に東京都担当者が審議会に毎月数十冊以上の図書を持ち込んだ場合、審議会で一部しか不健全指定されなくなったり、流通・販売の自粛があまり実行されなくなる可能性があるから、上から検閲の要望があった図書を狙い撃ちで販売自粛させられるように担当者が慣例に従っているだけかもしれません。
----
【追記】不健全指定に関連した裁判で東京都が示した見解によると「不健全図書類等の指定をするときには、審議会の意見を聴かなければならないと定めているものの、これに拘束されるとは定めていない」ということで、審議会は飾りらしいです。
----

 未成年者の強姦や近親者との性行為などは世界的名作とされる手塚治虫作品でもたびたび描かれていますが、たとえば角川書店から再発された「火の鳥 望郷編」では出版社が人肉食や近親相姦などのエピソードをまるごと削除していて、他社の再発版とはストーリーが大幅に異なります。このような過剰な自主規制は必要とは思えません。
 前回の東京都青少年健全育成条例の「改定」は2004年のことでした。実は、2004年の条例改定後、青少年条例の担当部局が従来の生活文化局から、新設された青少年・治安対策本部に移管されています。青少年問題の取り組みが福祉的対応から取締りを基本にした治安問題として扱われるようになりました。そうです、不健全図書制度は、このときに、青少年への福祉的な配慮を前提とした制度から、「治安を乱すものへの取締まり」という観点から行われるようになったのです。青少年・治安対策本部および本部内の青少年課には、警察庁から出向した職員が存在します。彼らが、今回の「改正」案作成の原動力となっています。
(2010.03 弁護士山口貴士大いに語る)

 18歳未満向けの携帯フィルタリング機能は、すでに国の青少年ネット規制法で親が許可しなければ解除できない仕様になっていますが、今回の青少年条例改正案では、解除理由などの事項を記載した書面を親が携帯電話会社に提出しなければ解除できないようにする条文があり、東京都は携帯電話会社のフィルタリング内容や利用状況などについて調査や勧告ができることになっています。
 各携帯電話会社のフィルタリング機能は、利用者の成長段階に応じて保護者が段階的に選択できるようになっています。しかし東京都は18歳未満の利用者に対して一律にフィルタリング設定を解除させないことを想定しているようです。現実には携帯フィルタリング設定の対象はエロサイトだけでないので、成長段階に応じて解除しなければ学校の授業に関連した内容も閲覧できない場合もあり、青少年が学習機会を奪われることになります。
 そもそもこの青少年条例改正案で示されている、18歳未満の青少年を不健全なものから遮断すれば青少年が健全に育成できるという考え方は正しくありません。現代社会の中で育つ青少年は、段階的にリテラシーを学んでいくほうが現実的です。成人するまで不健全なものから遮断して育てられた人間の中にも非人道的な性犯罪者が多いことは、世界各地で大規模なカトリック聖職者による児童への性的虐待が問題になっていることからもわかるでしょう。
 今回の青少年条例改正案には、児童ポルノ単純所持規制に言及した条文もあります。これは現行の児童ポルノ法で販売・配布が禁止されている18歳未満の性的な画像に関する規制で、非実在青少年の規制とは異なります。
 しかし現行の児童ポルノ法では、自分の子供の記念写真や芸術作品などを除外する規定はないので、単純所持禁止を児童ポルノ法と切り離して青少年条例で定めてしまうと、規制の目的が不明確になり冤罪の危険性がさらに高くなってしまいます。日本弁護士連合会も児童ポルノ単純所持犯罪化には反対しています。
 また、実際に児童ポルノ単純所持規制や児童ポルノのブロッキングを行っている国のほうが、日本より児童ポルノ発信数がかなり多いという指摘もあり、このような政策は児童ポルノ対策として効果的とはいえません。
 大阪府など、東京都以外でも同様の問題がある青少年条例改正案をつくる動きは出ているようです。日本中の多くの人の力で条例改正案の内容をよく確認して、役に立たない過剰規制を各地の議会が容認しないようにしてほしいものです。

・関連
→ 不明確な基準で一般人を摘発する表現規制条例
→ 騒動を利用して、無関係な表現まで検閲しようとする団体
→ ネット検閲が日本にも導入されるおそれ
→ いつのまにか過剰になる表現規制
→ 通報されているものはほとんど児童ポルノではない

2010.02.27 Saturday

野田聖子が中絶禁止と養子縁組制度拡大を主張

 自民党の女性議員代表を自称し、次期自民党総裁選への出馬に意欲を示しているらしい野田聖子が、日経ビジネスのインタビューで中絶禁止を主張していた。
 今は理屈じゃなく、ありとあらゆる手立てを使って、去年より1人でも子どもを増やす努力をしなければいけない。私は、思い切って母体保護法に手をつける、つまり中絶禁止までコミットしてもいいぐらいの気持ちです。
 例えば私もかかっていた不妊治療は、助成金が出ます。でも体外受精児は新生児約100万人のうち年間に2万人弱です。
 一方、1年間の中絶件数は公称で20数万人と言われています。保険適用外なので実際には2〜3倍近い堕胎があるのではないかと、NPO(非営利団体)法人などが言っています。変な話、これを禁止したら、産まざるを得ない人が出てくる。
 もちろんこれは相当極端な話で、現実には難しいです。私が言いたいのは、それぐらい「えぐい」テーマにしないとだめだと言う事です。今は、まだ議論がきれいごとで終わっています。
 でも即効性を求めるなら、20万人のうちもし半分が中絶できなければ、10万人が生まれてきますよね? そういう極端な議論もひっくるめた、本気の、包括的な議論が必要だと言いたいのです。
 でもそういう真正面の議論は出来ない。自民党はずるくて、「中絶は女性の権利だ」と言って逃げていた。でも本来、女性の権利はちゃんと避妊できることで、中絶できることではない。問題をすり替えている。
 中絶を厳格化するのと引き換えにピルの自由化をしたら、適正に子どもが生まれてくるでしょう。でもなぜかしていない。ピルが認可されるまでに数十年かかりました。バイアグラは1年ぐらいで認可されたのに(笑)。
 少子化は、今ないものを作ること。保育園を作るなど「今いる人」向けの対策を施しても増えません。
(2010.02.15 自民党・野田聖子衆院議員インタビュー 日経ビジネスオンライン)
 以前の日本では中年夫婦の中絶件数が多かったので、近年の経口避妊薬(ピル)や緊急避妊薬(アフターピル)の普及によって人工妊娠中絶件数が減ったことは事実だが、避妊薬さえあれば「適正に子どもが生まれてくる」ということではない。
 野田聖子は「中絶を厳格化する」と言い換えているが、日本の母体保護法と刑法の堕胎罪を本当に厳格化した場合、ヨーロッパで最も厳しい中絶禁止法のあるキリスト教国・ポーランドとほぼ同じ状況になり、事後避妊法(アフターピル)すら使用できなくなる可能性もある。
 中絶禁止は人命より宗教倫理を重視する団体などが主張している政策で、女性にとって非常に問題が多い。法律で中絶が禁止されても、レイプ被害や避妊の失敗がなくなるわけではない。もし仮に相手の男性をいますぐ強姦罪で訴えなければ病院では中絶できないとしたら、妊娠した女性はさらに苦しい状況に追い込まれる。
 実際に中絶が禁止されているインドネシアのような国では、医師ではない者が中絶手術を行うため、医療機関による中絶手術よりはるかに危険が多くなっている。
 つまり中絶禁止は日本から中絶率統計をなくすと同時に女性の身の危険を増やすだけで、日本国民にとっては少子化を解決する政策にはならない。野田聖子は中絶禁止をエサにすれば選挙などで宗教団体の動員力を利用できると考えたのだろうか。
 開発途上国145か国のうち143か国で人工妊娠中絶が認められているなかで、インドネシアでは人工妊娠中絶が認められていない。たとえレイプによる妊娠であっても人工妊娠中絶は許されない。人工妊娠中絶が非合法であることは、安全な人工妊娠中絶へのアクセスを困難なものにし、望まない妊娠をした女性を危険にさらしている。
 インドネシアでは年間250万件の人工妊娠中絶が行われており、妊産婦死亡の10〜30%は安全でない人工妊娠中絶によると推計されている。
(東梅久子 『臨婦産』2006-11.p1412-1413 産科医療のこれから)
 〔米民間団体「Guttmacher Institute」の、世界の妊娠中絶に関する〕報告書は、「法的制限は妊娠中絶を止めることはできない。中絶手術を危険にしているだけだ」と述べ、「合法な中絶手術を受けられないためにあまりに多くの女性が毎年、重傷を負ったり死亡している」と警告した。
(2009.10.14 AFPBB)
昨年、中絶手術を受けるために英国を訪れたポーランド女性の数が1万人におよんでいることが明らかになった。英国のNHS(国民医療サービス)はこの費用として500万ポンドから1000万ポンドを費やしていることになるという。
これは女性と家族のためのポーランドの機関「the Polish Federation for Women and Family Planning」が発表したもの。ポーランドでは中絶手術が違法とされているため、短期労働者として働く外国人にもNHS番号(国民保険番号)を交付して医療サービスを提供し、妊娠24週まで中絶手術が可能である英国が渡航先として人気が高いという。
(2008.12.17 UK.TODAY)
 ─欧米では〔夫婦別姓が〕認められているのに、日本では認められないのは、ほかにも理由があるのですか。
野田 全体主義者の人たちが言う、自己主張をして、好き勝手をするのが個人主義なのではなくて、自己完結を目指して、自分がどういう風に社会と共生できるかを考えることなのです。それがなぜ、欧米で浸透して日本では駄目なのかと言うと、宗教観の違いでしょう。ブッシュ大統領もキリスト教原理主義者で、イエス様に自分自身のお伺いを立てています。日本は八百万(やおよろず)の神で、宗教感覚が希薄ですから、なかなか浸透しないのです。
----
 ─海外では少子化対策をどうしているのですか。
野田 アメリカの大統領選でも議論になりましたが、中絶に関して、日本は鷹揚です。日本では年間30万件くらいの中絶がありますが、決してふしだらだからではありません。それぞれに経済的な事情などがあって、本当は産みたいが、そうせざるを得ない理由がある人が大半です。他国がなぜ中絶に厳しいかと言うと、それをしなくてもよいような制度があるからです。例えば匿名養子という制度があって、生まれた子供を子のない夫婦が養子縁組できるのです。
(野田聖子 『経済界』2005年4月号)
 一般的な感覚では「キリスト教原理主義者」という表現は否定的に使われるが、このインタビューでは野田聖子はまるでキリスト教原理主義の宗教観を美化するために「ブッシュ大統領もキリスト教原理主義者」と発言しているように見える。
 「中絶を厳格化する」という野田聖子の発言を「前後の文脈から見て本気ではないだろう」とブログなどで擁護している人もいたが、複数のインタビューやコラムなどでの発言をまとめると、どうやらキリスト教国を見習って中絶をほとんど禁止し、生まれた子供を育てられない親を増やすことで養子縁組や里親制度の条件を緩和させたいというのが野田聖子の持論らしい。
 ところが里親制度の先進国イギリスでは、性教育が義務化されていないため、避妊も中絶もせずに育てられない子供を産んでしまう女性が多すぎて、里親制度はすでに破綻して養育放棄や児童虐待が拡大しているのが実情。野田聖子は養子縁組や里親制度のことを、まるで不妊の夫婦に子供を提供してくれるシステムのように語っているが、むやみに里親の条件を緩和しても養育放棄や児童虐待が拡大するという現実をどう考えているのだろうか。
英国政府が一部出資しているチャンネル4が製作・放映したドキュメンタリー「Lost in Care」によれば、英国政府は現在、里親(フォスターファミリー)の限界を認識し、ドイツ型の小規模&家庭的養護施設(グループホームの事ですね)に注目しており、実験的な新タイプの養護施設をエセックス州を中心に設立し始めたといいます。
その英国政府と英国民が認識した里親(フォスターファミリー)の限界とは
----
(2)養育の現場が一般家庭同様に閉ざされた(他人のいない)場所であることから、預かった子供に虐待を加えたり、養育を放棄する里親があり、英国ではそうした事件が実の親による虐待事件と同じぐらい問題になっている。
(2009.12.12 はばたけ! 養護施設出身者)
それなりに信頼して預けた育児のベテラン・プロと思われる養育者でも苦労するケースが多い。
----
野田聖子は、自身が「養親になれない理由」を嘆くばかり。可哀想とか、自分なら育てられる、みたいな「善意」や「母性本能」や「意欲」をアピールしたところで、問題は解決しないだろう。
(2008.02.04 野田聖子の乳児院視察に「苦笑」 - 倫敦橋の番外地)


・関連
→ 青少年のセックスは法律で禁止しても減らない
→ 宗教右派の危険性
→ 性道徳だけ教えても性感染症予防にはならない
<<back|<123456789>|next>>
 このページの先頭へ